イラク戦争から20年、いまだに開戦支持の過ちを認めない日本政府   2023/3/15

イラク戦争から20年、いまだに開戦支持の過ちを認めない日本政府
2023/3/15
志葉玲

https://nikkan-spa.jp/1895726

 


「評価をする立場にはない」と岸田首相
 
 2023年3月20日で、イラク戦争開戦から20年となる。2003年、国連安保理常任理事国である米国は世界中の反対の声を無視し、国連憲章に反してイラクへの違法な先制攻撃を行った。そのことは、ロシアのウクライナ侵攻など、その後の世界情勢にも多大な悪影響を及ぼしている。そんな中、山本太郎参議院議員が3月2日の参議院予算委員会で、岸田文雄首相にイラク戦争の是非を問いただした。  山本議員は、米国の世界戦略や自衛隊の米軍との一体化を問う質疑の流れの中で、「アメリカが間違った方向に行った場合は、(日本は)行動を別にすることできますよね?」と岸田首相に質問した。  岸田首相が「当然のことながら、日本は日本の国益を考え、憲法や、国内法、国際法、こうした法の支配にもとづいて外交安全保障を考えていく、これが当然の方策であると考えます」と答弁したのに対し、山本議員は「イラク戦争はどうだったと思われます? イラク戦争は間違いでしたか? 正しい戦争でしたか? 教えてください、総理」とたたみかけた。  とたんに岸田首相は歯切れが悪くなり、こう答弁した。 「あのー、我が国としてイラク戦争の、えー、評価をする立場にはないと考えています。わが国として、自らの国益を守る。もちろん大事でありますが、それとあわせて 先ほど申し上げました、法の支配、国際法や国内法、こうしたものをしっかりと守る中で、国民の命や暮らしを守っていく。これが日本政府の基本的な考え方であります」  山本議員は岸田首相の答弁の欺瞞ぶりに憤った。 「なに言ってんですか。イギリスはじめ『イラク戦争は間違いだった』ってことを反省していますよ。日本だけですよ。なに言ってんですか! ぜんぜん反省できてないじゃないですか」 

 

イラク戦争は誤った情報のもとに始められた
 
 イラク戦争の開戦前後から幾度も現地を取材した筆者としては、20年経っても日本政府がイラク戦争の検証をまともにできていない中で、それを国会で追及した山本議員を大いに評価したい。一方、岸田首相の答弁は不誠実極まりないものだ。  岸田首相は、上記のように「我が国としてイラク戦争を評価する立場にはない」と答弁しているが、イラク戦争開戦当時の日本政府は、米国による武力行使を明確に支持していた。 「イラクは12年間にわたり、17本に及ぶ国連安保理決議に違反し続けてきました。イラクは、国際社会が与えた平和的解決の機会を一切活かそうとせず、最後の最後まで国際社会の真摯な努力に応えようとしませんでした。このような認識の下で、我が国は、我が国自身の国益を踏まえ、かつ国際社会の責任ある一員として、我が国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持します」 (イラク問題に関する対応についての小泉内閣総理大臣談話)  だが当時、米国が主張していたイラク戦争の動機としての「イラク大量破壊兵器」については、国連による現地での査察が行われていたにもかかわらず、その完了を待たずして米国は攻撃を開始したのである。  しかも「イラクの隠し持つ大量破壊兵器」は、その情報自体が誤りであったことを、後に米国自体が認めた。米議会上院の情報特別委員会は2004年7月9日、情報の収集や分析作業に数多くの誤りがあったと指摘し、「イラク戦争は欠陥情報に基づいて始められた」と断定している。

 


国連憲章に反した違法な戦争
 
 さらに米国のイラク攻撃は、国連安全保障理事会(国連安保理)による、武力行使容認決議を得ないまま開始された。つまり、先制攻撃を禁じた国連憲章に反する違法な戦争なのである。  これについては、小泉政権や安倍政権は「大量破壊兵器査察の受け入れ」を求める国連決議1441号や、湾岸戦争(1991年)の武力行使容認決議である678号と、その停戦条件である687号を組み合わせるという強引なこじつけで、「国連安保理決議を得ている」との暴論を言い張った。つまり“イラクへの武力行使”そのものの容認決議はまとめられなかったというのが、歴史的事実である。  興味深いのは、岸田首相は山本議員への答弁で、小泉・安倍元首相のような暴論を繰り返すのではなく「評価する立場にない」と逃げていることだ。すでに、米国を支持してイラク攻撃の有志連合に加わったイギリスとオランダ両国でのイラク戦争検証でも、ともに上述のような暴論は成り立たないとの見解がまとめられている。もはや、イラク戦争国連憲章に反した違法な戦争であったということが明白であるからなのかもしれない。  いずれにせよ、イラク戦争が過ちであったことを岸田首相も認めるべきだ。ありもしなかった「イラクが隠し持つ大量破壊兵器」という誤った情報で米国は戦争をしかけた。英NGOイラク・ボディー・カウント」の集計によれば、各報道で確認されたものだけでも、開戦から現在に至るまでに20万人前後の民間人が死亡したという。 

 


イラク戦争を検証し、当時の判断を撤回することが必要
 
 またイラク戦争は、ロシアのウクライナ侵攻にも「口実」を与えてしまっている。プーチン大統領は昨年2月24日、ウクライナ侵攻を開始する際の演説で、国際法を軽視する米国の振る舞いの具体例として、イラク戦争に言及。ロシアを欧米の脅威から守るため、とウクライナ侵攻を正当化する材料にしているのだ。  プーチン大統領の主張もまた強引なこじつけだが、イラク戦争の反省もないままに米国や日本が「力による現状変更は許されない」とロシアを非難しても説得力に欠ける。中東を長く取材してきた筆者の経験から言っても、米国のダブルスタンダードぶりは、とりわけ中東の人々からは冷めた目で見られていることは否めない。  3月20日イラク戦争の開戦から20年の年月が経つというのに、いまだにイラク戦争支持の誤りを認められないのでは、山本議員が問いただしたように「米国が間違った方向に行った場合、日本は行動を別にできる」かどうかは、大いに疑問だと言わざるを得ない。  ウクライナで続いている戦争を止め、今後、日本やその周辺で起きうる戦争を未然に防ぐためにも、国連憲章に基づく国際秩序が必要だ。そのためには、イラク戦争を検証してその誤りを認め、戦争を支持した当時の判断を撤回することが必要だろう。