なぜ公文書が “後進国”ニッポンの実像  2018/4/10 NHK


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なぜ公文書が “後進国”ニッポンの実像

2018/4/10 NHK政治マガジン

 

 

財務省による決裁文書の改ざん、自衛隊の日報問題。国会では、民主主義の土台を揺るがしかねない重大な事態だとして、野党側からは安倍政権の退陣を求める意見まで出ています。いま国の中枢で何が起きているのか、なぜいま問題が相次ぐのか、取材を進めていくと、「公文書管理は後進国」と言われても仕方のない日本の姿が見えてきました。
(政治部官邸クラブ記者・清水大志)

1日、1万ファイル

271万という数字、何か分かりますか? 平成28年度の1年間に国の行政機関から生み出された公文書=行政文書のファイル数です。日々、1万を超えるファイルが作られている計算になります。ファイルの中には多くの行政文書が含まれていて、1日に作成される行政文書の数でいえば、この数倍にのぼるとされています。

「行政文書」とは、簡単に言うと行政機関で作成された公文書です。行政機関の職員が職務上作成し、組織で共有され、使用・保有している文書と定義されています。
情報公開の対象となり、内容に応じて一定の期間保存しなければなりません。
そうしたルールを定めているのが「公文書管理法」ですが、この法律が施行されたのは平成23年。まだ施行から10年もたっていない新しい法律です。

「不適切」で生まれた法律

10年ほど前、厚生労働省で、血液製剤によってC型肝炎に感染したとみられる患者のリストが省内の倉庫に放置されていたり、防衛省で、保存期間を終えていない航海日誌の一部が廃棄されたりするなど、政府の不適切な文書管理が相次いで明るみに出ました。
これを受けて、平成20年、当時の福田総理大臣が「公文書管理法」の制定を指示し、それまで役所ごとにバラバラだった行政文書の作成や管理の方法に初めて統一的なルールが設けられたのです。

公文書管理のルールは3段階

行政文書の管理ルールは大きく3段階に分かれています。
①最も基本的なルールは公文書管理法です。公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけ、歴史資料として重要な文書は保存期間の終了後、すべて国立公文書館に移管することなどが定められています。
②公文書管理法に基づいて、国の行政機関が行政文書を作成・管理するための指針として「ガイドライン」が定められています。
ガイドラインには、行政の意思決定を検証するために必要な文書は経緯を含めて作成することなどが明示され、法律制定時に作られる文書は30年保存するなど、1年以上保存すべき主な文書の類型や保存期間の例が示されています。
③このガイドラインに沿って、各府省庁は、保存する文書の種類や期間などの文書管理規則を作り、行政文書の管理を行っています。

それなのに廃棄 理由は「内規」

森友学園への国有地売却をめぐる問題では、財務省が交渉記録を1年未満で廃棄していたことが問題視されました。しかし、財務省の内規では、交渉記録は1年以上保存する文書の区分に入っておらず、1年未満で廃棄できるとされていたため、こうした対応が可能となっていました。

また、防衛省南スーダンイラクの日報の問題でも同様の課題が指摘されています。
いずれの日報も、財務省と同様に、内規で1年未満で廃棄できることになっていたからです。国会などで「ない」と説明していたものが発見されたため問題となっていて、公文書管理法上は、仮に完全に廃棄されていたら問題とはならないのです。

一方、イラクの日報をめぐっては1年程前に発見されていながら、当時の防衛大臣にも報告していなかったことも発覚し、シビリアンコントロールが機能していないのではないかという別の問題もはらむ結果となっていて、徹底した原因究明が必要となっています。

ルールは改訂されたが…

森友問題、日報問題で見えてくる課題は、財務省防衛省ともに内規で、1年未満で廃棄できる文書として、交渉記録も日報も分類できたことです。
公文書管理法では、行政文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づけ、適正な保存を求めています。
しかし、実際の運用は各府省庁に任せられているため、国会では大きな議論となりましたが、1年未満で廃棄していたことは法令上、問題のない行為になるのです。
政府は、こうした事態を踏まえて、去年12月、ガイドラインを改訂し、◇1年未満で廃棄してよい文書を例示したうえで、◇日常的な業務連絡でも重要な情報を含む場合は1年以上保存することなどを明記しました。

あわせて各府省庁の文書管理規則も見直され、◇財務省では、行政運営が適正かどうか検証に必要な文書は原則、1年以上保存することになったほか、◇防衛省では、PKOなど自衛隊の活動に関する日報を10年保存することになりました。

同じ内容が別の文書に!? 構造的問題

各府省庁は、4月1日からこの規則の運用を始めることにしていましたが、その矢先、財務省の決裁文書改ざんが、続いてイラクの日報問題が発覚しました。
安倍総理大臣は、それぞれの問題の徹底究明を行い課題を明確にした上で、公文書管理法の改正も含めて対応を検討する考えを示しています。同時に、改ざんへの対策として、コンピューター上で管理することで、いつ文書が更新されたかが検証できる電子決裁システムへの移行を加速することにしています。

ただ霞が関では、早々に「膨大な行政文書を正確に把握することは難しい」という声も漏れています。それは、なぜか?。これも森友学園をめぐる問題から見えてきます。

ことし2月、財務省近畿財務局は、国会に対して、森友学園との土地の賃貸借契約の法律上の問題点を検討した経過記録を提出しました。
経過記録の中には、森友学園が国に対して、土地の貸付料の減額要請などを行っていたという、当時、国会に示されていた決裁文書には記載されていない事実が書かれていたのです。野党側は、「1年未満で廃棄していたはずの交渉記録が残されていた」と追及を強めました。
これに対し財務省は、「交渉記録に関連する文書だが交渉記録とは考えていない」と答弁しました。非常に興味深い答弁です。
財務省は、交渉記録の内容は載っているが、別の文書に記載があるだけで、交渉記録ではないと主張しているのです。
つまり古い公文書をもとに新たな公文書が次々と作成されていくと、古い文書の内容が含まれていても全く別の公文書になっていく。表題も変わることが少なくないため、直接の担当者でなければ見つけるのも困難になってしまうのです。
一方、財務省は改ざんという大きなリスクを冒しながら、あちこちに改ざんの事実を示す証拠をみずから残していたことにもなるわけです。

新ルールで問題が起きない?「甘い」

新たな規則の運用が始まった4月2日、内閣府のある課長は「新たな規則で問題が起きなくなると考えるのは甘い」と指摘しました。
確かに新たなガイドラインで、1年未満で廃棄されていたような日常的な業務連絡も、行政運営の検証に必要とされる重要なものは1年以上保存するなど、行政文書がより多く残るように指針が示されています。
ただ、どの文書を1年以上保存するのか、またどの文書を1年未満で廃棄してよいのかの判断を、1人ひとりの職員や各府省庁に実質的に委ねる仕組みはかつてのままなのです。