テレビ朝日の"椿発言"めぐり 政府が示した"電波停止も可能"の見解
放送法をめぐっては、政治の対応が議論を呼んだ出来事がある。
1993年、自民党が初めて下野した総選挙の約2か月後に行われた民放連の会合で「自民党を敗北させないといけないと局内で話し合った」などと、テレビ朝日の報道局長、椿貞良氏が発言したといういわゆる"椿発言"問題だ。
政治的公平を欠く放送が行われたのではないかとして、国会で証人喚問が行われた。「暴言であり不適切であった」と謝罪した上で・・・
テレビ朝日椿報道局長(当時)
「一部の政党、一部のグループを当選させるような目的で、今回の選挙に際して報道を行ったことは断じてございません」
証人喚問に対して、当時テレビ各局のキャスターが声を上げた。
田原総一朗氏「こういう形で証人喚問が行われて、しかもマスコミ偏向報道とか疑われて、(証人)喚問されるような前例になっては大変だというふうに私は思います」
国会議員からも証人喚問反対の声があがった。当時、無所属だった高市氏も・・・高市早苗衆院議員(当時・無所属)「いちいち気に食わない報道をしたとか、キャスターが好き勝手な事を言ったという度に証人喚問していたら、それはもう知る権利を奪うことにもなるし、マスコミの表現の自由にも大いに係わると思いますよ」
それまで政府は放送法の政治的公平について倫理規定としてきたが、"椿発言"にあったような事が実際の放送に影響を与え、放送法違反にあたるならば、電波停止も可能という見解を初めて示した。
それでも、放送法については当時の郵政大臣も局長も「1つの番組ではなく放送局全体で判断する」という解釈を示していた。
その後、メディア規制が特に目立つようになったのは、第2次安倍政権になってからだと専門家は指摘する。
第2次安倍政権の"メディア規制" NHKとテレビ朝日の幹部を呼びだして…
立教大学(メディア社会学)砂川浩慶教授「第2次安倍政権が長期化することによって、メディア規制がより顕著になり、かつ取り巻きと言われる人たちも一緒になってある種の塊としてメディア規制をやるようになったのが、この10年の20年の特徴なのかなという気がします」
その一例として、2015年4月、自民党がNHKとテレビ朝日の幹部を呼び、報道番組の内容をめぐって直接説明を求める異例の対応を行ったことをあげた。
翌年の2016年2月、当時の高市総務大臣は放送内容が極端な場合、電波停止の可能性に言及した。
野党から追及された安倍元総理は・・・
安倍晋三総理(当時)「高圧的に言論を弾圧しようとしてるのではないかというイメージを一生懸命印象づけようとしていますが、これは全くの間違いであるというふうに申し上げておきたいと思います。安倍政権こそですね、与党こそ言論の自由を大切にしていると思います」
批判的な放送内容を牽制し、安倍氏は出演するメディアを選別していたという。
立教大学(メディア社会学)砂川教授「自分の好きなメディアといいましょうか、出演する番組もある種、自分のことを伝えてくれる放送局には出て。逆に嫌なことを聞かせるためにやっぱりメディアはあるんですよね。逆にその権力を持っている人たちはそこは謙虚でなければいけないのは、いろんな様々な意見を聞いた上で、その権力を使っていくっていうことをやらないと、絶対その国は滅びていくと思うんですよね。これも歴史が証明していますので」
また安倍氏は、放送法をなくそうとする動きも見せていたと指摘する。
安倍元総理「大胆な見直し必要」放送事業のあり方に言及
2017年10月、衆院選公示の2日前、放送法が適用されないインターネットテレビに出演。安倍氏を支持する識者らに囲まれた。
この翌年、2018年2月。安倍氏はネットテレビについて・・・安倍晋三総理(当時)
「ネットテレビは、視聴者の目線に立てば、地上波と全く変わらないわけであります。このように、技術革新によって通信と放送の垣根がなくなる中、国民共有財産である電波を有効活用するため、放送事業のあり方の大胆な見直しが必要だと考えています」
この約1か月後、「通信・放送の改革ロードマップ」と題された政府の内部文書の存在が明らかになった。
そこには、政治的公平が盛り込まれた放送法4条を撤廃するとの記述があった。さらに、放送は基本的に不要なものだとしてネットへの転換を進めるとしている。放送の政治的公平が無くなるとどんな状況になるのか。
「FOXはトランプを産んだ」政治的公平が消えたアメリカで何が
アメリカでは放送の公平性を担保するために「フェアネス・ドクトリン」、公平原則が導入されていた。しかしレーガン政権下で廃止となり、アメリカの放送局から政治的公平が消えた。
立教大学(メディア社会学)砂川教授
「何に繋がっているかというとトランプなんですよね。いろんな論点を出せというのもなくなってしまったものですから、政治的に偏ったことしか伝えないメディアが出てきたんですよね。FOXですよね。FOXはまさにトランプを産んだとも言われていて」日下部正樹キャスター(TBSテレビ)「(公平原則の撤廃は)もしかしたら表現の自由とかそういうものに繋がるのではないかと思いますけれども、これまたちょっと現実は違うわけですよね」
立教大学(メディア社会学)砂川教授「アメリカの場合でいうと、この30年間かけて、結局分断がより進行してしまった。アメリカは1つの失敗例だって考えた方がいいと思いますね」
G7では日本だけ…政府→放送局に免許交付
日本の状況を調査するため、2016年には「表現の自由」国連特別報告者のデイビッド・ケイ氏が来日。1週間の調査を終え、問題視したのは。総務省が放送の監督機関となっている状況だった。
国連特別報告者デイビッド・ケイ氏「メディアはそもそも独立性のある第三者機関によって規制されるべきです。政府そのものが放送に規制をかけることはあってはならないと考えます」
実は、政府が放送局に免許を与えているケースは先進国では珍しくG7の中では日本だけだ。
政府が放送を直接監督している国としてはロシア、中国、北朝鮮などがあげられる。
専門家は・・・
立教大学(メディア社会学)砂川教授「他の国はどうしてるかっていうと、独立行政委員会というある種の第三者機関的なものがやってるんですね。やっぱり形式的に政府が免許を与えるってやると必ずメディア介入みたいなことが起こるんで」