もんじゅの失敗を忘れてはならない 日米の高速炉共同開発の中止を求める    海渡雄一(もんじゅ訴訟弁護団)

もんじゅの失敗を忘れてはならない
日米の高速炉共同開発の中止を求める
               海渡雄一(もんじゅ訴訟弁護団)
20230311 FBより
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 今日は朝8時から猿田佐世弁護士が代表を務める新外交イニシアティブとジョージ・ワシントン大学エリオット国際関係大学院の共催で、オンラインシンポジウム「日米の高速炉開発協力を問う」が開催されました。私はパネリストの一人として「もんじゅの失敗」について報告しました。
 あまり知られていませんが、アメリカと日本は、高速炉を「次世代革新炉」と位置づけ、官民挙げて開発協力を進めています。高速炉/高速増殖炉は1950年代から実用化が目指されてきました。しかしコスト高騰と安全性の問題に加え、核拡散を助長する恐れがあることから、アメリカは1990年代に原型炉の建設を取り止めました。日本も2016年、トラブル続きの原型炉「もんじゅ」を断念しています。
 そして、一時期日本政府はフランス政府の進めていたアストリッド計画に出資して高速炉開発の命脈をつなごうとしてきました。しかし、2019年8月29日、仏原子力代替エネルギー庁(CEA)が高速原型炉アストリッド(ASTRID)の開発放棄を公表しました。
 日本の高速炉開発計画は消滅寸前だったわけですが、そうしたなかで、アメリカ政府は数年前からにわかに高速炉開発に力を入れ始めています。
 これと呼応して 米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力ベンチャーテラパワーと電力会社パシフィコープは、米ワイオミング州にナトリウム冷却型の次世代原子炉第1号「ナトリウム」を建設するとの計画を公表しました。
 そして、日本政府は、破綻している核燃料サイクル政策を正当化し、これもトラブル続きの六ヶ所再処理工場の計画を断念することなく、運転を開始しようと躍起になっていますが、このような政策展開の一環として、アメリカの高速炉計画に参画しようとしています。さらに、両政府は、高速炉を含む「革新炉」の輸出でも協力するとしています。
 はたして高速炉は近い将来、商業的に成立する見込みはあるのでしょうか。「もんじゅ」の失敗から、私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。高速炉は核廃棄物や気候変動の解決策として有効といえるのか、そして核拡散にはつながらないのでしょうか。このような疑問に答えて、パネラーたちは報告しました。
 今回のシンポジウムでは、プリンストン大学のフランク・フォン・ヒッペル氏と「ナトリウム冷却高速中性子炉とプルトニウム分離を推進する米エネルギー省の新たな ―しかし― 不毛な試み: 日本の原子力研究・開発コミュニティーはなぜ参加したがるのか」と題して、このような動きの背景に、どのような勢力のどのような思惑があるのか、技術的な安全性が危ぶまれ、到底経済的な合理性も成り立たない計画に、政府が前のめりになっていることに、疑問が呈されました。
 さらに、カナダのブリティッシュコロンビア大学、そしてNRCの委員長を務めたアリソン・マクファーレン氏からは、「核廃棄物及び気候変動対策における高速炉の役割」と題して、高速炉の開発を進めることは各廃棄物対策としても、処分困難な廃棄物をあらたに産み出すだけであり、気候変動対策としても、リードタイムが長すぎ、短期的な政策ゴールを達成することは困難であることが示されました。
 グリーン・アクションのアイリーン・美緒子・スミス氏からは、「六ヶ所再処理工場の現状と高速炉開発との関係」と題して、日本が余剰プルトニウムを保持し、再処理計画の命脈を保つために、このような無謀な高速炉計画への参画が強行されているのではないかと報告されました。そして、討論の中では、私から、このような政策の背後には明示的ではなくとも、核武装のオプションを持ち続けたいという日本政府の一部に根強く残っている深層心理が影響しているのではないかと意見を述べました。
 わたしは、「もんじゅの失敗」と題して、このようなナトリウム冷却原発が、どんな技術的困難性をはらむのかについて、私の担当したもんじゅ訴訟の経過を紹介しながら論じました。