日本は武器を買うより食料の自給を このままでは戦うどころか「兵糧攻め」で餓死させられる
2023/1/27 日刊ゲンダイ
【リレー特別寄稿 岸田政権の歴史的転換にモノ申す】
鈴木宣弘(東大大学院教授)
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戦後、米国の余剰農産物の処分場と位置付けられ、日本の食料自給率はどんどん低下した。カロリーベース38%という自給率だが、野菜の種の自給率が10%しかないことや化学肥料の自給率がほぼゼロであることを考慮すると、実質は10%あるかないかくらいとの推定もある。
我が国が国民の命を守るのにどれほど脆弱な国であるかは、海外からの物流が停止したら、世界で最も餓死者が出るのが日本との米国の大学の試算にも如実に示されている。今こそ、国内農業生産を増強しないといけないのに、逆に、コメも牛乳も余っている。だから、コメつくるな、牛乳搾るな、牛殺せ、牛乳捨てろ、と言っている。
牛を処分してしまったら、また足りないとなっても、牛乳生産回復には3年近くかかるから絶対に間に合わない。海外からの輸入が滞りつつあるときに、逆に自ら国内生産力をそいでしまう「セルフ兵糧攻め」をやってしまっている。
牛を殺したら5万円支給とか、愚かな金の使い方でなく、他国のように、農家にしっかり生産してもらい、政府が穀物や乳製品の在庫を買い取り、国内外の援助に使うことで需要創出する前向きの政策に財政出動すれば、農家も消費者も助かるのに、日本だけはやらない。援助政策は米国市場を奪うとして逆鱗に触れる可能性を恐れている。
すでに、国内農業は肥料、飼料、燃料などの生産コスト暴騰にもかかわらず農産物の販売価格が上がらず、この半年くらいの間に廃業が激増しかねない。直近の酪農家アンケートでは98%が赤字と答えており、子供の成長に不可欠な牛乳を供給する産業が丸ごと赤字というのは社会的にも許容できない危機である。
さらに、在庫が過剰なのだから、コメつくるな、牛乳搾るな、と言いながら、77万トンものコメと13.7万トンもの乳製品の莫大な輸入は「最低輸入義務」と言って続けている。
国際協定には、そんな約束はなく、どの国もそんな輸入はしていないのに、日本は米国の怒りに触れるのを恐れて、北海道だけで14万トンの生乳の減産をしながら、13.7万トンの輸入をしている始末だ。米国から無理やり買っているコメは国産米の1.5倍に値上がりしているのに、そんな高いコメを輸入して国産を減産させている。
いくら武器を揃えても国民の命は守れない
国内農業の崩壊を加速させ、いざというときの国民の食料確保を顧みずに、一方で「防衛費5年で43兆円」「敵基地攻撃能力強化」と叫んで、米国の武器の在庫処分にも協力している。いくら武器を買い増ししても、食料のない日本は、戦うどころか、逆に「兵糧攻め」されて餓死させられてしまう。いくら武器を揃えても、国民の命は守れない。お金を出せば食料を買える時代は終焉した。不測の事態に国民の命を守るのが「国防」というなら、国内農業を守ることこそが安全保障の要である。食料にこそ数兆円の予算を早急に付けないと国民の命は守れない。
米国の顔色をうかがって国内農家や国民に負担を強いるのはもう限界である。政治・行政も我が身の保身でなく国民を守る覚悟を持ってほしい。国民も、お金を出せば輸入できるのが当たり前でなくなった今、国内農業こそが希望の光、安全保障の要だと認識し、一人一人が国産農産物を買い支える行動を今すぐ起こそうではないか。
▽鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)1958年三重県生まれ。東大農学部卒業後、農水省や九大大学院教授を経て2006年から現職。専門は農業経済学。「農業消滅」「世界で最初に飢えるのは日本」など著書多数。