除染土再利用も「閣議決定頼み」でなし崩しに猛進…特措法で想定されず、国会での議論もなし 2022年12月15日

除染土再利用も「閣議決定頼み」でなし崩しに猛進…特措法で想定されず、国会での議論もなし
2022年12月15日  東京新聞

 

 東京電力福島第一原発事故に絡み、環境省が前のめりになる除染土の再利用。広域展開の計画を今月公表したが、根源的な疑問がある。事故後に議員立法で成立した除染関連の特別措置法は、再利用に関する規定がないのだ。立法した国会としては「除染で集めた汚染土の再利用まで想定せず」ということか。再利用は「国会が合意するに至らず」と捉えるべきか。少なくとも「この道しかない」と再利用に猛進する状況にあるとは思えない。(山田祐一郎、中山岳)

所沢市新宿御苑で実証事業、前のめりの環境省
 「地元の理解を得られるよう丁寧な説明を尽くす」
 除染土再利用の広域展開計画を今月明らかにした環境省のトップ、西村明宏環境相は9日の会見でそう述べ、再利用を推し進める意向を改めて強調した。
 除染作業で集めた汚染土、いわゆる「除染土」のうち、福島県内で生じた1300万立方メートル余は第一原発周辺にある中間貯蔵施設に搬入された。最終処分する量を減らすべく、環境省が計画しているのが、中間貯蔵する除染土の再利用だ。

 今月には環境調査研修所(埼玉県所沢市)や新宿御苑(東京都新宿区)で実証事業を行うと明らかにした。芝生や花壇、駐車場などの造成に使う。16日と21日には、それぞれの地元で住民説明会を開く。
 除染土の再利用は「汚染拡散につながる」と懸念があるにもかかわらず、環境省は前のめりに進めようとしている。ただ再利用について、きちんと合意が取り付けられているかというと、微妙なところだ。


◆特別措置法に再利用に関する規定はない
 除染土の取り扱いを定めるのは、放射性物質汚染対処特別措置法だ。議員立法で2011年8月に成立した。実はここに、再利用に関する規定はない。
 龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「環境省は、除染土の再生利用が法で定められているかのようにし、実証事業を推し進めるが、それは拡大解釈だ」と指摘する。
 特措法によれば、除染土の扱い方として記されるのは「処分」だ。再利用は該当しないというのが大島氏の見解だ。「処分は、管理された施設での埋め立てなどを意味するもの。再利用の意味は含まない」

 「処分と再利用は別物」と語る上で引用するのが、一般的な廃棄物の扱い方など規定した廃棄物処理法。実際に見てみると、第1条で「再生」と「処分」が区別して記載されていた。
 埋め立てなどの集中管理ではなく、各地で再利用することになると「法的な管理責任があいまいになる」と述べ「汚染された土を福島のためという名目で、無管理状態にするのは欺瞞ぎまんそのものだ」と強調する。
 日本大の糸長浩司元教授(環境建築学)も「環境省は、特措法を扱った国会のような場でオープンな議論を行うことなく、なし崩し的に再利用を進めようとしている。まさに放射能放置国家だ」と危ぶむ。
 特措法の採決に加わった国会議員は当時、どのような認識だったのか。
 社民党に所属していた阿部知子衆院議員(立民)は特措法を審議している際、「除染土の再利用は想定されていなかった」と語り、再利用に合意した覚えはなかったという。
 「もともと放射性物質で汚染された土壌の処理について規制がなかったためにつくられたのが特措法だった」と振り返った上、こうくぎを刺した。
 「環境省が再利用を進めたいなら、国会で法改正を議論すべきだが、『放射性物質は拡散させない』というのが法律の趣旨。再利用はそこから逸脱する」

 

◆「民主主義の手続きとして正統性が薄い」
 環境省の方はといえば、何の合意もなく再利用を進めようとしているわけではない。よりどころになる一つが特措法の基本方針。2011年11月に野田佳彦内閣が閣議決定という形で合意している。
 ここでは、除染土の保管や処分の際に「可能な限り減容化を図る」と記され、汚染の程度が低い除染土について「安全性を確保しつつ、再生利用などを検討する」とうたう。基本方針の中身を踏襲するよう、環境省は実証事業を計画し、再利用を盛り込んだ省令改定も視野に入れている。
 閣議決定も確かに合意の一形態だろうが、国民的な合意を得たわけではない。
 駒沢大の山崎望教授(政治理論)は「除染土の処分方法は国民生活に影響がある重要なテーマ。閣議決定はあくまで時の内閣のメンバーだけの合意で、それだけで進めるのは民主主義の手続きとして正統性が薄い。多くの国民が受け入れられるかどうかは、国会の審議が欠かせない」と話す。

 近年は国政の重要案件を巡り、閣議決定で方針決定を済ませてしまうケースが目立つという。
 一例が、14年に安倍晋三内閣が閣議決定した集団的自衛権の行使容認だ。その安倍氏が今年7月に銃撃されて亡くなった後、岸田文雄内閣も早々に国葬の実施を閣議決定した。
 山崎氏は「いずれも国会で十分に議論すべきだったが、軽視された。閣議決定を根拠に国民的議論が深まらない政治がまかり通れば、民意が置き去りにされ、行政権力の暴走につながりかねない」と危ぶむ。


◆事故を起こした東京電力の責任はどこに
 除染土の後始末を巡り、政府は中間貯蔵施設から45年までに搬出し、福島県外で最終処分する道筋を打ち出すが、具体像は見えないままだ。後始末は重要案件だけに本来は丁寧な合意形成を図るべきだが、環境省は「各地で再利用」ありきの姿勢を取るように思える。一体、なぜなのか。
 国際環境NGOFoE Japan」の満田夏花事務局長は「中間貯蔵施設から除染土を運び出すことが空約束になりかねない現状で、環境省は少しでも減らそうというポーズを福島の自治体に示したいのではないか」と推し量る。その上で「事故を起こした東電の責任が問われるはずだ。国も責任を持って集中管理を行い、その費用を東電に請求すべきだ」と唱える。
 満田氏は、環境省が示す数値基準も問題視する。再利用できるのは「1キロ当たり8000ベクレル以下の除染土」とするが、これは廃炉原発で出た資材の再利用基準(同100ベクレル以下)より大幅に緩いからだ。さらに「放射性物質を含む土は1カ所で集中的に管理すべきだ。再利用は環境汚染が拡散するリスクをはらむ。こうした問題があるのに、環境省からは国民と広く議論しようという姿勢が感じられない。こっそりと話を進めたがっているようにすら見受けられる」と語る。
 第一原発がある福島県双葉町の元町長、井戸川克隆氏(76)は「再利用なんてありえない話がまかり通るのは、国や東電が根本的な解決策を避け、汚染者負担の原則がないがしろにされてきたからだ」と憤る。
 一方で、国民的議論が足りないと訴える。「一人一人が原発事故の本質について学んだとは言えず、後始末についても官僚の思い通りに話が進むことを止められない。国民は感情論だけで反対するのでなく、主体性を持って処分方法を検討し、国会議員に提案する気概が必要だ。その上で、国民的合意をはかる努力が求められるのではないか」
◆デスクメモ
 除染土再利用は特措法に定めがないのに基本方針に盛り込まれた。途中でおかしな方向に進んだと認識を共にし、後始末の方法を議論し直すことが今、必要な作業では。基本方針を閣議決定したのは民主党政権。流れをくむ面々も過去を顧みるべきだ。それなくして信を得るに至らない。(榊)