英保守党トラス氏政権投げ出し…新自由主義路線が破綻 2022/10/22 しんぶん赤旗

英保守党トラス氏政権投げ出し…新自由主義路線が破綻

 

2022/10/22 しんぶん赤旗


 トラス首相が英史上最短の任期で政権を投げ出さざるを得なくなった背景には、極端な新自由主義路線の破綻と生活苦にあえぐ国民のたたかいがあり,ました。(伊藤寿庸)
●背景に国民のたたかい
 9月23日、クワーテング財務相(当時)が発表した減税策は、所得税最高税率の45%の廃止と40%への引き下げ、所得税基本税率の20%から19%への引き下げの前倒し、来年4月に予定されていた法人税の19%から25%への引き上げの撤回などが含まれていました。
 トラス氏はこれが「成長政策」だと豪語。しかし富裕層や企業にお金が残ればそれが経済全体に「したたり落ちていく」と考える典型的な「トリクルダウン政策」でした。
 この政策の背後には、新自由主義シンクタンクがあります。その一つ「アダム・スミス研究所」は、クワーテング氏の発表に対し、「英国経済を軌道に戻す第一歩」と歓迎。ある保守系のブロガーはツイッターで、「(新自由主義シンクタンクの経済問題研究所は)トラスやクワーテングを育んできた。英国はいまや彼らの実験室だ」と発言していました。
 すでに英政府は、コロナ禍の下で企業による労働者の解雇を防止するための1年半に及ぶ賃金補助やフリーランス・自営業者への収入保証などで、1000億ポンド(16兆8000億円)弱(シンクタンクの財政研究所試算)を支出。その補てんのために前政権が計画した増税を、トラス政権が財源の裏付けなく廃止したことで、財政破綻の懸念を招き、急激な通貨ポンドの下落、英国債の売り(利率の上昇)を引き起こしました。
 国際通貨基金(IMF)は、主要国の内政に異例の言及をおこない、「不平等を拡大する」として「見直し」を求めていました。バイデン米大統領も「超富裕層への減税は間違いだと思う」と発言。
トラス氏は政策の大部分の撤回に追い込まれましたが、極端な新自由主義政策が世界からの拒否で行き詰まったことが、自身の命運を絶つ結果となりました。
■首相追い込んだ「支払うな」運動
 英国民が直面する最大の問題は、年率10%を超えるインフレによる生活苦です。党首選では「ばらまきはしない」と主張していたトラス氏でしたが、首相就任直後の9月初め、10月以降の家計のエネルギー料金の上限を2年間にわたり2500ポンドに抑え補助金を導入しました。
 トラス氏の「軌道修正」をもたらしたのは、国民のたたかいでした。
 実質賃金低下に苦しむ労働者が大規模ストを実施。鉄道、郵便、通信、造船、自治体職場などでストが相次ぎ、今後医療・看護、教員、消防士などにも広がる勢いです。労働者のたたかいと連帯する共闘組織「もうたくさんだ」が立ち上がり、全国規模の行動を組織しています。
 エネルギー料金の支払いを拒否する「支払うな」運動は、各地で請求書を燃やすデモンストレーションを行っています。支払える水準への料金引き下げを求め、無視された場合支払いを拒否するというこの運動は、現在賛同者が20万人を超え、100万人を目標にしています。運動の主催者は、1980年代末から90年代初頭にサッチャー政権が導入した「人頭税」(成人全員に一律の税金をかける税)に対する支払い拒否運動が1700万人に広がり、「人頭税」を廃止に追い込んだ前例がある、と訴えています。
 ただトラス氏は、辞任の前日の19日、下院審議で「戦闘的な労働組合を抑え込む措置を取る」と敵意をむき出しにしました。辞任前の最後の行動として20日、「交通ストライキ(最低限のサービス)法案」を下院に提出し、労働者のスト権の制限に踏み出しました。保守党政権の労組敵視姿勢は、トラス氏辞任でも変わりません。
■首相たらい回しに批判総選挙求める声高まる
 保守党は2010年以来の12年間で、5人目の首相を選出することになります。今年に入って3人目です。総選挙を経ず、保守党内で首相の座をたらいまわしすることへの反発は強く、21日付の英各紙は「今こそ総選挙を」の大見出しが躍りました。
 選挙を経ない首相交代は保守党のいわば「お家芸」。①2016年、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票で離脱派が多数となり、残留派のキャメロン首相が辞任し、メイ氏に交代 ②19年、EUとの離脱交渉を進めていたメイ首相が辞任し、より強硬な立場を主張するジョンソン氏に交代 ③今年、新型コロナの行動制限中に首相官邸でパーティーをしていた違法行為でジョンソン氏が辞任し、トラス氏に交代…と繰り返されてきました。いずれも国民不在の権力争いでした。
 労働党のポール・スウィーニー下院議員はツイッターで、保守党政権について「英国を分裂させかかっている ▷EU離脱で国民を分断 ▷緊縮で国民生活を破壊 ▷多数の死者が出る中でパーティー ▷億万長者に減税をして、経済を崩壊させた ▷もうたくさんだ」と述べました。
 英最大の民間労組ユナイトのシャロン・グレアム書記長は、「英国は緊縮政策の第2段階に入ろうとしている。政権交代が必要だ」とツイートしました。