<社説>原発新増設検討 福島事故の教訓どこに

<社説>原発新増設検討 福島事故の教訓どこに

2022/8/25 北海道新聞

 

 岸田文雄首相が原子力発電について、次世代型原子炉の開発を検討するよう関係省庁に指示した。年末にも結論を出すという。

 東京電力福島第1原発事故後、原発依存度を可能な限り低減させ新増設や建て替えは想定しないとしてきた歴代政権の方針を転換しようとするものだ。将来も原発を使い続けることにつながる。

 原発の過酷な事故は多くの人々の生活を破壊し、賠償や廃炉に膨大な費用が生じる。政府は福島の事故で地震国の日本に原発は適さないという認識に立ったはずだ。

 岸田政権は原発が脱炭素に不可欠だとし、ロシアによるウクライナ侵攻で揺らぐエネルギー供給の安定にも資すると強調する。

 福島の事故の全容はいまだ解明されていない。国民の不安を解消せぬまま、福島の教訓を踏まえた政府方針を唐突にほごにすることは認められない。

 首相は指示を撤回し、エネルギー供給のあり方を国会などで改めて徹底的に議論すべきである。

 新増設や建て替えは、昨年改定された国のエネルギー基本計画に記載がない。首相も最近まで「想定しない」と繰り返していた。

 ウクライナ危機では、有事の際に原発が攻撃対象になる危険性が指摘されている。

 それなのに首相は、脱炭素社会の実現に向けた非公開の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を2回開いただけで、新たな指示を出した。

 政府方針を転換しようとする理由や、これまでの発言との整合性について説明はなく、あまりに無責任と言わざるを得まい。

 首相は新規制基準の審査に合格している原発7基を来年夏以降に再稼働させることを目指すほか、最長60年としている運転期間の延長も検討するとした。

 合格済みの一部原発では、再稼働の条件になっている地元自治体の同意や避難計画策定が進んでいない。そのため首相は「国が前面に立つ」と踏み込んだ。

 だが、そもそも政府が主導してきた福島原発の事故処理作業は完了のめどが立っていない。処理水問題では経済産業省が東電とともに取り組んできたが、地元漁業者の理解を得られないままだ。

 そのほか原発を巡っては「核のごみ」の最終処分場など、未解決の問題が山積している。

 そうした状況で原発政策の転換を突然打ち出すことは、国民の不信感を一層高めかねない。その認識を首相は著しく欠いている。