2019年12月10日に発足したマリン首相率いるフィンランド新内閣。19閣僚中12人が女性で、連立与党各党の党首も社民党を除いて、女性が務める。左から、教育相のリー・アンデルソン、内相のマリア・オヒサロ、首相のサンナ・マリン、財務省のカトゥリ・クルムリ。
「社会的格差をなくすこと、皆が平等に扱われること、教育を受けられること、環境の保護や気候変動問題に取り組むこと、ウェルビーイングな社会であること。それが私たちの目指す社会の姿です」
彼女がそう訴える背景には、自身の生い立ちが大きく関係している。
マリンがまだ幼い頃、父親のアルコール中毒が原因で両親は離婚。母親は仕事を転々とし、経済的に苦しかった。7歳のころには母親の同性パートナーと一緒に暮らすようになり、「レインボーファミリー」で育った。そんな境遇にあっても、彼女は一家で初めて大学に進学。この経験が今の彼女の「人間は常に平等」という思考の軸となったようだ。
ジェンダー平等は社会全体に大きな利益をもたらす。
今年3月8日の国際女性デーに、マリンは国連総会の壇上に立ち、聴衆にこう語りかけた。
「世界の半数は女性であるにも関わらず、この議場で聞くのは男性の声ばかり。国連加盟国193カ国のうち、女性の元首や首脳はわずか21カ国です」
世界一幸せな国とされるフィンランドでは、これまでも女性議員によって多くの変革がなされてきた。男性の有給育児休業取得や子育ての公的支援、無料の学校給食などの政策もその一例だ。マリンは「ジェンダーギャップを解消する政策の実現には、まず政策を決定する高官ポストに多くの女性を置くことが最善です」と強調。そしてこう訴えた。
「ジェンダー平等は、あらゆる性別・世代の人に大きな利益をもたらします。この価値を認識し、真のインクルージョンが実現すれば、私たちの行動や目指すべきゴールの障壁となる固定観念から、自分たちを解き放つことができるのです」
マリン自身、出産後にはパートナーのマルクス・ライコネンと6ヶ月ずつ育児休業をずらしてとった。
「誰も、キャリアか家庭かの選択を迫られるべきではありません。子どもが幼い時期は一度しかなく、父親にも育児をする権利と義務があります」
日本から見ると先進的に見えるが、フィンランドにジェンダー不平等の課題がないわけでは決してない。一つには、男女の賃金格差の問題がある。ユーロスタットの2018年の調査によると、女性の平均賃金は男性よりも16%低い。そして二つ目が、ドメスティックバイオレンスの増加やレイプ事件などの性暴力。マリンは、こうした重要な問題に対して、法的な厳罰化を進める政策を打ち出すなど、改革に取り組んでいる。
真に持続可能な社会を目指して。
今年3月のイギリス版『VOGUE』のインタビューで、マリンは自身の最重要政策についてこう語っている。
「社会的、そして経済的にサステナブルな世の中をつくるだけでなく、必ず環境面でもサステナブルでなければなりません」
フィンランドは、2035年までにカーボンニュートラル達成を目指すという、世界的に最も野心的な二酸化炭素排出量の削減目標を掲げており、他国や海外企業からの排出量を取引するクレジット購入にも頼ることなく、発電や自動車などからの排出量の実質ゼロを目指している。
「私は20歳のとき、上の世代の人たちが若い世代に比べ、圧倒的に気候変動に対する危機感が薄いことに失望しました。だから自分たちが変えないといけないと、政治に関わることを決めたのです。確かに2035年の削減目標は野心的です。でも私たちは、必ずこの目標を成し遂げられます」
常に「若い女性」というレッテルが付いてまわるマリンのキャリアを鑑みながら、彼女はこう話す。
「いつか性別や年齢について問われない時代になってほしい。私は出来る限り社会に尽くしたいと思っているだけで、男性よりも能力が上なわけでも下なわけでもない。何事もすべて上手くいく保証なんてないけれど、もし思うようにいかないことがあった時に『若い女性だから失敗した』と解釈されたくありません」
そして、多くの有能な女性たちが陥りがちなインポスター症候群についても、こう語る。
「誰だって、周りの人の協力なしに大きな目標を成し遂げることはできません。それは当然のことなので、自分を過小評価する必要はないと思っています。政治の世界で長年仕事をしていて気づいたのは、私たちはただ同じ人間であるということ。そして、どんな人にも限界があるから、できないときにも気に病むことはないということです」
Text: Mina Oba Photos: Getty Images