<社説>泊原発差し止め判決 北電の安全軽視を断じた 2022/06/01

<社説>泊原発差し止め判決 北電の安全軽視を断じた
2022/06/01  北海道新聞


 北海道電力泊原発は安全性に問題があるとして、道内外の約1200人が廃炉などを求めた集団訴訟で、札幌地裁はきのう、住民側の訴えを一部認め、北電に運転差し止めを命じる判決を下した。

 判決は北電側が防潮堤の安全性を立証しなかったため、津波による原発事故で「住民の人格権が侵害される恐れがある」とした。

 人格権は生命や身体、自由など他人に害されてはならない権利を指し、憲法で保障されている。

 それが脅かされている以上、住民には原発の運転を差し止める権利があると明示した。

 東京電力福島第1原発事故を受け、平穏な暮らしを続けたいと願う住民感情に配慮したものだ。

 泊原発は9年に及ぶ原子力規制委員会の再稼働審査の途中だ。

 裁判で北電側は、規制委の審査が続いているのを理由に多くの論点で主張を先送りにしてきた。

 だが、審査中であっても説明を尽くすべきだというのが司法の判断だ。北電は自らの不誠実さを深く反省しなければならない。

 北電の安全軽視は規制委からも指摘されていた。判決を重く受け止め、廃炉も視野に再稼働申請の取り下げを考えるべきだ。

■立証責任は事業者に

 積丹半島西岸沖の海底や原発敷地内の断層、防潮堤などの状況から、裁判所が周辺住民に具体的な危険性が及んでいるとみるかどうかが焦点だった。

 判決はまず、泊原発の安全性については施設を保有し知見やデータも持つ被告の北電側が立証すべきだとの考え方を示した。

 立証責任は本来なら原告側にあるが、それを住民が担うのは負担が大きく公平さに欠ける。

 このため同種訴訟では被告の国や事業者側が立証に努めなければ、危険性はあると推認する判断の仕方が定着しつつある。

 四国電力伊方原発の設置許可取り消し訴訟で最高裁がかつて示した考え方だ。

 札幌地裁が「被告側が人格権侵害の恐れがないと立証する必要がある」としてそれを踏襲したのは住民側への配慮と言える。

津波対策不備を重視

 国の新規制基準は津波防護施設の設置を求めている。にもかかわらず北電側は、現在の防潮堤を支える地盤が液状化したり沈み込んだりする恐れがないことを裁判で立証しなかった。

 これを受けて判決は、現状では「津波防護機能を保持する施設は存在していない」と断定した。

 「津波への安全基準を満たしておらず、事故で人格権侵害の恐れが推定される」として、放射性物質による健康被害の可能性が高い泊原発から半径30キロ以内の住民に運転差し止めの権利を認めた。

 津波対策の不備による運転差し止め命令はこれが初めてだ。訴えに真摯(しんし)に向き合う姿勢を欠いた北電側が自ら招いた結果だろう。

 人格権に基づき原発の運転の差し止めを命じたのは、関西電力大飯原発を巡る2014年の福井地裁判決に続くものだ。

 福島の事故で原発安全神話が崩壊し、国や電力会社の論理より住民に軸足を置く司法判断の流れは今後も強まる可能性がある。

■再稼働の資格あるか

 規制委の再稼働審査は13年7月に始まった。同時に申請した国内4原発はすべて4年以内に合格している。だが泊の議論が深まっているわけではない。

 「長期化の原因は北電の態勢、姿勢にある」と規制委の更田豊志委員長が批判したように、データの不備や遅れが相次いだためだ。4月には藤井裕社長が謝罪した。

 北電側の説明は早くても来夏まで続く。想定する地震津波の基準は規制委の指摘を待って修正しようという受け身の姿勢も目立つ。原発を担う資格すら疑わしい。

 「規制委の審査中」を理由に主張を先送りにした北電に対し、判決は「審査会合の状況によって変更され得る被告の主張立証に延々と対応」できないと断じた。

 北電は判決を不服として控訴の方針だが、審査結果が出るまでは二審でも立証をしないつもりか。ならば司法に背を向ける態度だ。

 再稼働まで料金値下げはしないとも言及しており、道民は全国一高い水準の電気代に苦しむ。

 脱炭素化で再生可能エネルギー重視を打ち出す政府は20年後、道内に泊3基の最大7倍に及ぶ出力の洋上風力を整備する方針だ。

 今後は豊富な電力を道外にどう送電するかが課題になる。ベースロード(基幹)電源を他に確保すれば原発固執する必要もない。

 廃炉には巨費を要するが、福島事故を受け分割償却できるよう国が会計基準を変更し、全国15基に適用された。検討の時機だろう。

 これ以上原発に傾斜するのは道民にとって不安が募る。北電は判決を機に認識を改めるべきだ。