映画『名もなき生涯』

映画『名もなき生涯』

 

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『名もなき生涯』(2019年 テレンス・マリック)が、2020年の2月、日本で公開された。コロナがはやり始めたころだ。

 

 第二次世界大戦時のオーストリアヒトラーへの忠誠を拒絶し、その信念を貫き通した一人の農夫の物語である。

 彼の名はフランツ、山と谷に囲まれた美しい村で、妻のファニと 3 人の娘と暮らしていた。

 

 フランス降伏後ナチスドイツの影がますます濃くなる中、兵役の拒否を明言していたフランツに召集令状が届く。フランツは、ナチスの訓練に参加することを受け入れるが、他の兵隊が「ハイル・ヒトラー」と敬礼する中、フランツだけができなかった。

    なぜ、ナチスドイツへの忠誠を拒否するのか。罪のない人を殺せないという信念、そして「忠誠するのは神のみ」という敬虔な理由からだった。

 フランツは、拘留所を経て収容所に強制連行されてしまう。

 刑務所で看守はフランツに言った。「ヒトラーへの敬礼はただの挨拶だ」。しかしフランツが敬礼をすることはなかった。毎日のように敬礼を強制され、拷問にもかけられるが、フランツは屈しない。

 とうとうフランツは裁判にかけられることになった。ヒトラーへの敬礼をしない者は、死刑になる。裁判を担当していた判事は、フランツにこっそり言う。「正義を貫いたところで誰も見ていない」。

 それでもフランツの意志は変わらなかった。「自分の感覚で過ちだと感じることはやりたくない」と首を縦に振らなかった。死を迫られても意志を変えようとしないフランツに、判事は死刑求刑を下す他なかった。

 

 死刑判決を受けて、ファニは司祭と急いでベルリンの刑務所に向かう。死刑執行当日、ファニとフランツは何ヵ月ぶりかの再会を果たす。それは二人に許された、最後の面談だった。ファニは泣かない。そしてフランツの耳元で言う。「愛している、何があろうとあなたと共にいる。正義を貫いて! 神さまに言われた門を叩いて」。フランツもまた、神の恵みでまた会えると約束する。彼らの会話はこれが最後となった。

 

 1943年8月9日、フランツは36歳でギロチンの刑に処せられた。フランツの村では、教会の鐘が鳴り響く。その音に気付いた村の者達は誰がするからでもなく皆、頭を垂れた。

 このシーンで映画は終わる。

 

  映画『名もなき生涯』のラストに掲げられる、19世紀のイギリスの女性作家ジョージ・エリオットの詩。

 

歴史に残らないような行為が

 

世の中の善をつくっていく

 

名もなき生涯を送り、

 

今は訪れる人もない墓に眠る人々のおかげで

 

物事はさほど悪くはならないのだ

 

 

 2007年6月、ローマ教皇ベネディクト16世はイェーガーシュテッターを殉教者と認定する。1943年に処刑された一人の農夫の思いは、半世紀以上経って、認められた。