月舟移霧渚

     月舟移霧渚
     楓楫泛霞濱
     臺上澄流耀
     酒中沈去輪
     水下斜陰碎
     樹落秋光新
     獨以星間鏡
     還浮雲漢津

       月舟(げっしゅう)霧渚(むしょ)に移り
       楓楫(ふうしゅう)霞浜(かひん)に泛(うか)ぶ
       臺上(だいじょう)流耀(りゅうよう)澄み
       酒中 去輪(きょりん)沈む
       水下(くだ)り 斜陰(しゃいん)砕け
       樹(き)落ち 秋光(しゅうこう)新たなり
       独(ひと)り星間(せいかん)の鏡を以て
       還(ま)た雲漢(うんかん)の津(しん)に浮かぶ

       ※( )内の表記は現代仮名遣い


    

  詩は第42代文武天皇(683〜707)の五言律詩「詠月(月を詠ず)」です。

  夜空を水面に見立て、渡る月を舟に見立てます。

   月の舟は霧のたちこめる渚を移りゆき、
   楓の楫(かじ)持つその舟は、もやにかすむ浜に浮かんでいる。

  第一句と二句は同じ場面を別の表現で繰り返しています。この楓は楓香樹という香木です。秋の紅葉でなじみ深いあの楓(かえで)ではありません。芳しい月の舟なのです。

  第三句から第六句までは月の光を受ける地上を詠みます。

   臺(うてな)の上には流れる月の耀(ひかり)が澄みわたり、
   酒杯の中には移り去る月輪が沈んでいる。
   天上の川水が流れるにつれ(=月が空を渡ると)、月に照らされる
   斜めの陰は砕けて形を変え、
   木々は葉を落としていて、すっきりと透る秋の光はさわやかである。

  最後の聯(れん 二句)はまた天上に還って月を詠みます。

   月はひとり星々の間の鏡となって、天の川の渡し場に浮かんでいる。

  明るく澄んだ光を表して、月を鏡に喩えるのは、詩歌には珍しくありません。「雲漢」は銀河、また天の川の意味で用いられます。
  漢詩の表現の伝統に則っておおらかに天空を詠んだところに、秋の気の爽やかさが漂う、美しい夜の詩です。

 

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