「復興五輪」の裏で進む「棄民」 住まい追われる避難者:朝日新聞

 「復興五輪」の裏で進む「棄民」 住まい追われる避難者

 

2021/7/28 朝日新聞

 

 

「復興五輪」は最初からフィクション 今井照さん(地方自治総合研究所・主任研究員)


 「復興五輪」は最初からフィクションでした。原発事故の起きた国で五輪が開けるのかという危惧に対し、東京五輪までには「完全に問題ないものとする」と世界に約束した。そこで、国は原発被災地に集中投資をして五輪開催に向け「復興」=「原発事故の終わり」を演出してきました。しかし実際は今なお汚染水が増え続けており、居住不能な被災地域は山手線内の面積の5倍もあります。


地方自治総合研究所主任研究員の今井照さん。東日本大震災の被災者の心の動きを10年にわたり調査した=東京都千代田区


 この10年、国は原発事故処理に必要な法整備や「次」に備える制度づくりが十分ではありませんでした。例えば「廃炉法」は今もって存在しない。廃炉の定義がないので、国がいつでも「はい、これで廃炉は完了」と言えてしまう状態です。
 原発事故避難は、避難が広域に及び期間が長期化し、避難者数は大量になる。その特徴を踏まえれば、まず避難元と避難先の2拠点居住の権利、つまり避難する権利を「個人の権利」としてしっかり法制化する必要があった。その上で、住宅再建を柱とする支援法を整備するべきでした。
 自然災害を想定した災害救助法は国が被災者を「支援」するしくみですが、原発事故は人為的な災害なので、被災者は「賠償」で元の生活を取り戻すのが大原則です。特に住宅再建は喫緊の課題ですから、まずは国が被災者の住宅を再建して、その経費を事故の加害者に求償する法制度が必要だった。それを自然災害と同様に処理しようとするから、国家公務員宿舎の退去問題のように事態が泥沼化するのです。
復興とは、被災した一人の生活を再建すること
 賠償のしくみが整わず、国の原子力損害賠償紛争解決センターも機能しなかったので、被災者個人が東京電力という大企業と対峙(たいじ)しなくてはならなかった。今も各地で原発避難者による損害賠償請求訴訟が続いていますが、適切な賠償の構図があれば、簡便で早期の解決があったはずです。
 そして何より被災者の多くが不安に思うのは健康問題です。初期被曝の影響を心配する人たちに対して、検査費用や被曝の影響と思われる症状が出た場合の治療費を生涯にわたって国が保証する法整備も必要です。
 昨年あたりから、福島県を筆頭に国や自治体は外から住民を呼び込む移住政策を強調し始めましたが、本末転倒です。本来「復興」とは、地域空間を建物や移住者で埋めることではなく、被災した個々人の生活が再建されること。避難先での生活も含まれます。
 そもそも原発事故の当事者は福島の人たちだけではなく、国民全体のはずです。いま我々が直面するコロナ禍と同様に誰もが当事者という認識があれば、「復興五輪」というフィクションは生まれなかったはずです。