東電株主代表訴訟における武藤栄元副社長に対する反対尋問と裁判官補充尋問を詳報する朝日新聞Ronza記事

 

 

 Yuichi Kaido
2021/7/9 FB


東電株主代表訴訟における武藤栄元副社長に対する反対尋問と裁判官補充尋問を詳報する朝日新聞Ronza記事


今週火曜に実施された、東電株主代表訴訟の尋問内容を、朝日新聞の奥山記者がまとめたRonza記事です。すごい分量ですが、手に汗握るドキュメンタリーになっています。ぜひ、ご一読いただきご感想をいただければ幸いです。
私の行った反対尋問の様子も報じられています。自分の尋問の内容がこんなに長い記事になることはまずないことです。それにもまして、興味深いのは、私たちの反対尋問を受けて実施された裁判官三名による補充尋問です。もともと10分の予定が、合計で47分に及んだと記事は述べています。長さだけでなく、内容も辛辣なものでした。
朝倉裁判長ら三名の裁判官の弾丸のような厳しい尋問に対して、武藤氏は何度も答えられず言葉に詰まり、最後は涙ぐんでいたように私には見えました。
この記事を読んでいただければ、この裁判が、福島原発事故を招いた東電経営陣の判断の正当性について鋭く切り込んでいることを、はっきりと認識していただけると思います。
以下 ハイライト部分を引用しておきます。
****************
(武藤被告に対する反対尋問)
海渡弁護士が焦点を当てるのは、2008年6月10日に武藤氏を交えて東電社内で開かれた会議だ。
 「10人くらいいたかなと思います。酒井さん、吉田さんがいたなという記憶がありますが、それ以外はだれがいたか定かではありません」
 原子力立地・本部副本部長だった武藤氏はその会議で、原子力設備管理部長だった吉田昌郎氏(故人)、その部下にあたる土木グループ(2008年7月1日に土木調査グループに改組)マネージャーの酒井俊朗氏らから、国の地震調査研究推進本部(略称は「推本」または「地震本部」)が2002年7月に公表した長期評価について初めて説明を受けたという。
 その会議で配布された資料の1ページ目には「これまでの経緯」として推本の長期評価の簡単な説明があり、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りで大地震が「どこでも発生する可能性がある」と書かれている。この見解への賛否について地震学者にアンケートしてその回答を平均したところ、「どこでも起きる」が多数派で、「福島沖は起きない」は少数派だったとの結果も示され、同業他社の対策の検討状況も記されている。
 2ページには、福島第一原発に最大15.7メートルの高さの津波が来て1~4号機の主要建屋の敷地が海水で覆われうるとの計算結果の平面図が添えられている。3ページには、福島第二原発に関する計算結果が同様に平面図で示されている。
 4ページには、「現在の検討状況、今後の検討内容」として「対策工に関する概略検討(土木)」という項目がある。防潮壁、防潮堤の設置が提案されており、「必要な許認可の洗い出しが必要」と書き込まれている。
 この会議について、酒井氏は2018年の刑事公判で「対策を前提に説明をしています」と証言している(注1)。
 しかし、この会議の趣旨について、武藤氏は「長期評価をどう扱ったらいいのか、よくわからなかったから(土木グループや吉田部長が自分のところに)相談に来た」と主張し、「具体的な対策工まで(話が)いっていない」と強調する。
 ここで海渡弁護士が切り込むのは、(2008年)6月10日の会議で武藤氏が出した「宿題」の内容だ。会議後に土木グループがまとめたメモによれば、武藤氏は以下の4点について部下に回答を求め、その結果に基づいて再度の会議を持つことにした。
津波ハザードの検討内容について詳細に説明すること。
・4m盤への遡上高さを低減するための概略検討を行うこと。.
・沖に防潮堤を設置するために必要となる許認可を調べること。
・平行して機器の対策についても検討すること。
 「津波ハザード」というのは、津波の高さごとにその発生頻度(確率)を示したグラフのことで、武藤氏は「いったいどうやって計算しているんだ?」とその根拠を知りたかったという。メモには「津波対策を実施するか否かの判断に係わるため」とあるが、武藤氏はこの部分に限っては「私は言ってません」と否定する。
 「4m盤」というのは、1~4号機の原子炉建屋のある海抜10メートルの高さの敷地の海側にあるやや低い敷地を指し、海面からの高さは4メートルほどで、津波で冠水するリスクが相対的に高い。非常用発電機のエンジン部などの過熱を防ぐための冷却水を海から取り込むための非常用海水ポンプが配置されており、安全上も軽視できない。
 4つの「宿題」のうち最初の1つを除く3つはいずれも、何らかの対策をとることを前提としている、といえる。
 一方、この4つの「宿題」のなかに、福島県沖の日本海溝沿いで巨大な津波地震が起こり得るとの推本の長期評価の根拠について調べてこい、との指示は含まれていない。長期評価の根拠が分からなかったと言うのならば、なぜ、その根拠に関する調査を「宿題」にしなかったのか。海渡弁護士はそう質問する。
 「何か決められるような状況にはないと思いました」と武藤氏は言う。質問への正面からの回答はない。
 その「宿題」の結果を聞くための再度の会議は2008年7月31日に開かれた。
 この会議が始まるより前、内心で方針を決めていたのか、との質問に、武藤氏は「話を聞いて決めようと思いました」と答える。
 武藤氏はその会議で、推本の長期評価の扱いについては土木学会に研究を依頼し、その結論が出るまでは、従来の津波想定のままとし、つまり、津波対策の実施を先送りする方針を決めた。
 この方針が決まってから1週間後の2008年8月6日、東京電力と同様に、東日本の太平洋岸に原子力施設を保有する東北電力日本原子力発電(原電)、原子力機構(JAEA)の3事業者に東電の方針を説明する会議が東電社内で開かれ、酒井グループマネージャーらが出席した。
 その際のメモや資料によれば、東電側は、推本の長期評価について「簡単に採用する訳にもいかず、慎重な対応が必要」と保留にし、「当面」は従来どおりの想定で「進める」との方針を説明する一方、「推本見解を否定することは不可能」「推本を無視することは困難」とも口にした。
 これを示されて、武藤氏は「これは担当がつくったが、どういう考えで書いたのかは分かりません」と答える。
 推本の長期評価について武藤氏は次のように述べる。
 「それは知見ではなくて、ご意見だと思います」
 その理由として、武藤氏は「何か新しい知見があったのかと何度も聞いたんですけど、ないわけです」と説明する。
 事故後に一部国有化された東京電力が新しい経営陣のもとで2013年3月にまとめた「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」の添付資料「根本原因分析図」では、武藤氏ら東電経営層の問題点として「津波は来ない(来ると考えたくない)と思い、思考停止した」と分析されている(注2)。
 これについて問われると、武藤氏はそれを「読んでません」と断言する。にもかかわらず、「こんなふうに思ってませんでした」と内容を否定する。
 東電の正式な文書ではあるが、武藤氏としては、聞き取りもなく、勝手にまとめられ、公表されたと不愉快に感じているようだ。筆者(奥山)のいる傍聴席からは見えなかったが、閉廷後の海渡弁護士の説明によれば、このとき武藤氏は憤然とした表情だったという。
 2008年9月10日に福島第一原発の幹部らを対象に開かれた説明会で配布された資料が武藤氏に示される。その2ページ目の「今後の予定」の欄の最後に「津波対策は不可避」と書かれている。
 武藤氏は「対策が不可避だという議論、説明は一切ありませんでした。この資料があることも知りませんでした」と答える。
 午前11時40分から海渡弁護士に代わって、甫守一樹(ほもり・かずき)弁護士が主に貞観地震について質問していく。
 午前11時58分、朝倉裁判長が甫守弁護士と武藤氏のやりとりに割って入る。
 「ちょっとさっきから、はぐらかすんだけど」
 そう注意し、質問への正面からの返答を武藤氏に促す。
 午後零時10分、反対尋問はひと段落し、1時間の休憩に入る。

(後略)