<核のごみどこへ 五つの論点>5 倫理 負の遺産 10万年先まで    2021/6/24

<核のごみどこへ 五つの論点>5 倫理 負の遺産 10万年先まで

2021/6/24 北海道新聞

 

 東京・上野の国立科学博物館の常設展示「人類の進化」。旧人ネアンデルタール人の復元像が野性味のある姿で立ち、近くには現生人類ホモ・サピエンスの頭蓋骨の複製も並ぶ。

 慶応大の河野礼子教授(50)=自然人類学=は「30万~20万年前に誕生したホモ・サピエンスがアフリカから世界各地に広がり始めたのは10万年前くらい。日本にはまだ人はいなかったと思われる」と解説する。一方、人類は10万年後にどうなっているのか。「よく聞かれる質問だが、1万年先を想像するのも難しい。人類は資源を使いつくし、環境を破壊しつくし、あと1万年も持つのかどうか」

■最悪想像すべき

 10万年―。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の毒性が人に安全な水準まで下がるのに必要な年月だが、人類の行く末も分からない未来にまで影響を及ぼす原発を生んだ現世代はどうすべきなのか。

 ドイツの哲学者ハンス・ヨナス(1903~93年)は、核のごみの処分は「世代間倫理」の問題だとし、現世代には未来の世代への責任があると論じた。

 ヨナスは「人類の滅亡」は核兵器ではなく、「原子力の平和利用」によってもたらされるかもしれないと指摘。危険性が自明の核兵器と異なり、今の世代は平和利用という名の下で原発の有益性に目を奪われ、「数千年もの未来に対する毒を沈積させながら、何事もないかのように立ち去っていく」と警鐘を鳴らした。

 欧州の哲学者の考えを解説した著書「原子力の哲学」がある関西外国語大の戸谷洋志准教授(33)は「『平和的な技術だ』と善意で使っていても破局的な未来をもたらすことがある。ヨナスは現世代は最悪の未来を想像すべきだと訴え、将来、技術革新が起きて問題が一気に解決するというような考えを特に批判した」と話す。

■宗教者も検証に

 東京電力福島第1原発事故を受け、ドイツ政府は原発の専門家らでつくる原子炉安全委員会と哲学者や社会学者、宗教者でつくる倫理委員会の二つに原発政策の検証を託した。その結果、「航空機墜落を除けば安全性は高い」とした安全委ではなく、「原発は安全性が高くても事故は起きうる。次の世代に廃棄物処理などを残すのは倫理的な問題がある」と結論づけた倫理委の考えを重視し、22年までの脱原発を決めた。

 福島原発事故の当時、故郷ドイツにいたという立命館大のラウパッハ・ヨーク教授(60)は米国のスリーマイル、旧ソ連チェルノブイリ、そして福島と自分の世代に大きな原発事故が3回起きたと振り返り、「原発は安全ではないという前提に立つことが重要で、社会としてそのリスクを負うかどうかは倫理的な判断だ。ドイツは負うべきではないと判断したが、日本は宗教的なほど原発の安全性を信じている」とみる。

 ドイツの脱原発の動きに詳しく、日本カトリック司教協議会が2016年に発刊した「今こそ原発の廃止を」の編さんに携わった上智大神学部の光延(みつのぶ)一郎教授(65)は、神に背いて禁断の果実を食べたアダムとイブの「原罪」に触れ、「人間は同じ罪を繰り返す弱さがあり、10万年先まで負の遺産を残すのも罪だ」と説き、問いかける。「罪を犯す宿命にあらがって神の望むような人類の救いに向かうか、自ら穴に落ちて滅亡に向かうかは人間の責任で、どう生きるのか一人一人の見識が問われる」=おわり=(この連載は川崎学、佐々木馨斗、長谷川裕紀、山田一輝が担当しました)