牧田寛「原点から考える福島第一原子力発電所放射能汚染水海洋放出問題」

岩波書店 「科学」

2020年2月号牧田寛「原点から考える福島第一原子力発電所放射能汚染水海洋放出問題」より

 

問題の本質
 東京オリンピックの開催が迫り,昨年後半頃から経済産業省(経産省),資源エネルギー庁原子力規制委員会東京電力4者により,東京電力福島第一原子力発電所における重要懸案事項の一つである多核種除去装置(ALPS)処理水の最終処分問題に結論を付けようという動きが顕著になっている。
 福島第一原子力発電所に林立している「汚染水タンク」の中身は,「ALPS 処理水」(ALPS による処理後の水)と「ストロンチウム処理水」(ALPS の前処理としてストロンチウム(Sr)とセシウム(Cs)を除去し,脱塩した水)に分けられる(図1)。これら全体をあわせて「処理水」と呼称している。かつては加えてRO濃縮塩水もあったが,すでにALPS による処理を終えている。
 「トリチウム水」とは,これらのうちALPS 処理水であり,処理水全体の90% 以上を占め,増加中である。報道などでは「トリチウム水」と呼称されているが,これは現実と大きく異なっており,きわめて深刻に理解と議論を妨げている。
 処理水は,(1)高濃度多核種放射能汚染水の処理方法を模索していた初期の発生分(~2013 年),(2)ALPS の運用を開始し操業方法を試行錯誤していた時期の発生分(2013~2015 年),(3)ALPS が安定動作した時期(2016 年),(4)初期に発生したRO 濃縮塩水を含め滞留したSr 処理水のALPSによる再処理を行っている時期(2017 年~)の4 つにおおきく分けられる。ALPS 処理水とは,これらのうち(2)(3)(4)である。
 これら3 つの時期によってALPS 処理水に含まれるトリチウム以外の放射性核種の濃度は大きく異なっており,同一に論じることはできない。
 2013 年以前の発生分を含めSr 処理水についてもタンクに保管されており,2019 年12 月12 日現在で約7 万7000 トン(t)存在している。これらはALPS などによる多核種除去処理待ちである。とくに漏洩の危険性が高いフランジ接合型タンク*1については,2019 年3 月に移送を終えている。
 ALPS により多核種除去の済んだALPS 処理水は,2019 年12 月12 日時点では約109 万8000 t 存在する。これが「トリチウム水」と政府・東京電力によって呼称され,海洋放出を第1候補とした最終処分を目指し2018 年8 月に公聴会福島県と東京で開催されたものである。いまだにこのALPS 処理水を「トリチウム水」と呼称する政府・与野党関係者やメディアが存在する。しかしこのALPS 処理水は,トリチウム以外の複数の核種について環境へ放出する基準である告示濃度を数倍から2 万倍上回り残留するものが75% を占めており,科学的にも工学的にも「トリチウム水」と呼称することは根本的な誤りであり,きわめて非科学的で不誠実な詐術と断言できる。
 ALPS 処理水の最終処分は,産業災害廃棄物処理,公害防止という視点で論じねばならない事柄である。