社民党の分裂    新川敏光

 

社民党の分裂    新川敏光

 

上から目線、この党の失敗     新川敏光さん(法政大学教授)


 社民党の分裂に特に感慨はありません。

社民党は、前身の社会党が新党結成に失敗し、行き場を失った勢力が生き残りのために存続させたという印象が強く、社会民主主義を実現するために結成されたとは理解していません。

 戦後日本の政治において、社会党が護憲平和を掲げた歴史的意義は大きいと思います。ただ、護憲の考えを社会権に基づく福祉国家へと発展させることはできませんでした。

社会党を支配したのはマルクス主義勢力であり、彼らはひたすら自民党を批判し、労組の特殊利益を守ろうとしたのです。

 1986年の「新宣言」によって、社会党はようやく西欧型社民主義の道を模索し始めるのですが、湾岸戦争以降は「左翼バネ」が働き、見直しの実現が遅れるなかで、政治改革の波にのみ込まれてしまいました。

94年に成立した自社さ連立政権では、社会党は新しいビジョンもないまま「日米安保容認」「自衛隊合憲」を打ち出し、護憲平和の一枚看板を下ろしてしまいました。身を挺(てい)して自民党を救ったといえるでしょう。

 つまり社会党社民党の失敗は、社民主義の失敗ではありません。日本では、社民主義はいまだかつて試みられたことはないのです。

 社会党が教条的社会主義から抜け出せなかったのに対し、自民党は利益誘導によって有権者の支持を拡大しました。最も巧みだったのが、田中角栄元首相です。「政治は生活」という信念のもとに公共事業や補助金を通じて地域間格差を是正し、首相になってからは「福祉元年」を掲げ、社会保障制度の改善に取り組みました。

 こうした政策は、社民主義と重なるところがあります。しかし社民主義において有権者は政治主体である「市民」なのに対し、自民党・田中政治では「保護される存在」としての「庶民」です。政治の受益者にすぎません。田中は傑出した「家父長」でした。

 しかも田中は、実力者となっても国民目線で政治を捉え、有権者に訴えました。車座で酒を飲むようなスタイルといってもいい。だからこそ熱烈な支持を得たのです。上から目線で理念を語っても、共感は得られません。何を訴えるかはもちろん大事ですが、どのように訴えるかも同じぐらい大事なのです。

 格差が広がる今日、社民主義への要請は高まっているといえます。一方で、それを担う政党があるかといえば、心もとない。今の時代に合う社民的政策を打ち出すこと自体は、さほど難しくないかもしれません。しかし有権者の信頼と支持を得られない。言葉が軽いからです。政党が何をいっても、選挙目当てにしか思われない。政治に言葉の力を回復することから始める必要があります。

                                (聞き手・岸善樹)

しんかわとしみつ 1956年生まれ。

専門は政治学。著書に「幻視のなかの社会民主主義」「田中角栄 同心円でいこう」など。


(耕論) 社会民主主義のゆううつ
2020年12月18日 朝日新聞