福島県在住の詩人,和合亮一さんの詩

福島県在住の詩人,和合亮一さんの詩 

 

 行き着くところは涙しかありません。私は作品を修羅のように書きたいと思います。

 放射能が降っています。静かな夜です。

 この震災は何を私たちに教えたいのか。教えたいものなぞ無いのなら、なおさら何を信じれば良いのか。

 この世に絶対は無い。果実に絶対は無い。

 人類は原子力の素顔を見たことがあるか。余震。

 制御不能。言葉の脅威。余震。

 あなたにとって故郷とは、どのようなものですか。私は故郷を捨てません。故郷は私の全てです

 今、これを書いている時に、また地鳴りがしました。揺れました。息を殺して、中腰になって、揺れを睨みつけてやりました。命のかけひきをしています。放射能の雨の中で、たった一人です。

 あなたには大切な人がいますか。一瞬にして失われてしまうことがあるのだ…と少しでも考えるのなら、己の全存在を賭けて、世界に奪われてしまわない為の方法を考えるしかない。.

 私の大好きな高校の体育館が、身元不明者の死体安置所になっています。隣の高校も。

 静かな夜です。とても静かな夜。放射能の吐息。

 これほど「福島」の地名が、脅威に響くとは。鹿の鳴き声。

 眠り方が分からないのです。揺り動かされるからです。どうすればいいのですか。潮鳴り。花吹雪。口笛。鳥のさえずり。雲の切れ間。

 人が旅立つ場所が無い、行き交う場所が無い、帰る場所が無い。時計は2時46分で止まったままです。

 お願いです。南相馬市を救って下さい。浜通りの美しさを戻して下さい。空気の清々しさを。私たちの心の中には、大海原の涙しかない。

 僕はあなたの心の中で言葉の前に座りたいのです。あなたに僕の心の中で言葉の前に座って欲しいのです。生きると覚悟した者、無念に死に行く者。たくさんの言葉が、心の中のがれきに紛れている。

 2時46分に止まってしまった私の時計に、時間を与えようと思う。明けない夜は無い。