豊かな故郷 原子力に狂わされぬよう

 2/25朝日新聞青森版「りんご🍎の目」


豊かな故郷 原子力に狂わされぬよう
 記者生活の最後は生まれ故郷の青森県内で仕事をしたいと考え、3年前に希望してむつ市へ赴任してきました。
 管内の下北半島六ヶ所村核燃料サイクル施設はじめ、東通村原発など俗に「核燃半島」と呼ばれるくらい原子力施設が集中しています。そこで暮らしている同郷の人たちが、どんな思いから施設を受け入れてきたのか、つぶさに見たいという思いからでした。
 この間取材して意外に思ったことがあります。むつ小川原開発やそれが失敗した後に持ち上がった六ヶ所村の核燃サイクル計画に、最初は強い反対が住民の中にあったという事実です。横浜町など特に陸奥湾内の漁業者たちは地道な努力でホタテ養殖を成功させ、それが軌道にのりつつありました。だからこそ「おらが海」を守るため、原子力船むつの試験航海を阻止しようと何十隻もの漁船を出し、海上を封鎖する運動が起こったのです。しかし巨額の開発マネーが人々を狂わせました。生活に破綻し、故郷を離れた人も大勢いたそうです。
 私は、原発がある新潟県柏崎市でも勤務したことがあり、国が進めてきた原子力政策はまことにずるいものだと考えています。片田舎の地域にわずかばかりの「お金」という薬を与え、薬漬けにする。そうすれば、どんなことでも受け入れる、と踏んでいるように思えてなりません。
 東北地方を指して「白河以北一山百文」という言葉があります。新聞社に入社してしばらくたって知ったのですが、明治維新以降、東北は「福島県白河市から北の土地は山一つが百文くらいの価値しかない」と蔑視されてきたのです。でも私なら「それは違いますよ。東北は土地も心も豊かなところですよ」ときっぱり言い返します。
 2月25日付で、朝日新聞社を退職することになりました。これが私の最後の「りんごの目」です。
(伊東大治)