破綻よそに高額報酬 資本主義、危機が問う進化

破綻よそに高額報酬 資本主義、危機が問う進化
パクスなき世界 夜明け前(5)

2021/2/25 日本経済新聞

 

 

企業の目的は利益だけなのでしょうか――。

「この計画は腹立たしい」。2020年9月、米レンタカー大手ハーツ・グローバル・ホールディングスの破産手続きを進める裁判で、裁判官の厳しい言葉が何度も発せられた。批判の矛先は経営陣にボーナスとして合計540万ドル(約5.7億円)を支払う計画。同社は一時解雇を含め1万6千人を削減した一方、破産申請の数日前にも役員に高額の特別手当を支給した。


米百貨店大手JCペニーは破産申請の直前に最高経営責任者(CEO)に450万ドルを支払った。経営責任を問われるはずの幹部が利益を得ていた。従来、正当化されてきた米国の経営トップの高額報酬のひずみはコロナ禍で拡大している。


コロナ禍で経営陣の高額報酬に批判の声があがる(2020年6月、メキシコシティ)=ロイター
資本主義では企業を中心に利益を追求する行動が経済全体のパイを拡大してきた。18~19世紀の産業革命以降、企業を通じ雇用や所得が増え、中間層が大衆消費社会を支えた。企業の成長で労働者も恩恵を受けられた。

21世紀は大量雇用が不要なデジタル経済に軸足が移り、企業が生む利益と労働者への配分は同じベクトルとはならない。国際労働機関(ILO)によると、17年の世界全体の労働分配率は51.4%と04年から2.3ポイント低下。労働者に回る富は限られ、経済のダイナミズムが失われつつある。


危機の度に企業のあり方は問われる。08年のリーマン・ショックで金融機関幹部らの強欲さが批判された。コロナ禍は放置されてきた問題の深刻さを浮き彫りにした。

共通の未来を描きにくい今、企業は社会における存在意義を自問する。「コロナ禍で優先したのは従業員と顧客の安全」。米ゼネラル・モーターズGM)のメアリー・バーラCEOは1月、デジタル技術見本市「CES」で強調した。人類の危機に際し、同社は「我々には製造業の専門知識がある」と、人工呼吸器を3万台、マスクを2億枚生産した。

行き過ぎたテック企業の流儀への対抗軸も広がる。「フェイスブックは『監視資本主義』に陥っている」。マーク・ワインスタイン氏は利用者のデータを使い広告収益を得るモデルに疑問を感じ、16年に広告なしのSNS(交流サイト)の「MeWe」を立ち上げた。基本料金は無料で、追加機能を使いたい利用者が料金を支払う仕組みだ。

プライバシーを重視する消費者が他のSNSから乗り換え、足元で1700万人が使う。ワインスタイン氏は「顧客のデータを売らない倫理的な企業をめざした。本来の資本主義は顧客に喜んでもらい信頼関係を構築するものだ」と訴える。

21年3月期に初の純利益1兆円超えを見込むソニー。18年に社長に就いた吉田憲一郎氏が最も力を入れたのが、企業の存在意義の再定義と社員・株主などとめざす方向性の共有だ。その価値観を人工知能(AI)活用の規範にも反映し、自社製品が人類に悪影響を及ぼさぬよう自らを律する。