再生エネ普及へ地域間送電網を複線化 政府、東北・九州候補に

再生エネ普及へ地域間送電網を複線化
政府、東北・九州候補に

2020/10/31 日本経済新聞

 

再生可能エネルギー拡大の妨げとなっている送電網の弱さを解消するため、政府は送電網を複線化して増強する。電力会社と来年春までに計画を策定して具体的な場所や規模を詰める方針で、東北や九州などが候補になる。2050年までに温暖化ガス排出量を「実質ゼロ」にする政府目標の実現に向け、欧州に比べて遅れている送電インフラの整備を急ぐ。

 

電力は発電所から送電網を使って各地域に送る。送電網が不十分だと太陽光や風力など再生可能エネルギーの電気を十分に送れない。特に都市部に送る送電網の不十分さが目立つ。

東北から首都圏に送る連系線の容量は615万キロワットで東京電力のピーク電力需要の11%にとどまる。地方と都市部を結ぶ連系線は他の地域でも需要の1割前後しか送れないケースが多い。東日本と西日本では周波数が違うため変換装置が必要だが、能力は120万キロワットと東電のピーク需要の約2%分しかない。

経済産業省は温暖化ガス排出ゼロに向けた実行計画をつくり、これに合わせて送電網の増強計画を策定する。電力会社と連携し、地域を越える連系線や、地域内の主要路線の基幹系統の状況を調査する。2021年春をメドに優先的に整備する地域を示す。

現時点では東北や九州が有力候補だ。東北では大手電力が原発や火力発電用に送電網を確保し、実際は空いていても再生エネ事業者が使えない問題がある。秋田など日本海側では洋上風力の建設計画が進み今後も再生エネの発電量が増える。政府は送電網の利用ルールを見直すとともに、東北や新潟と首都圏を結ぶ連系線の複線化を検討する。

太陽光発電が拡大する九州では、電気を使い切れず太陽光事業者が出力を抑える事態が起きている。19年度は計74回発生し、1回あたり最大289万キロワットと原発約3基分の出力を抑えたこともあった。

本州とつなぐ連系線を増強して送電できる量を増やせば出力抑制を減らせる。九州から本州へと結ぶ連系線は238万キロワットと九州電力のピーク電力の15%程度で設備を複線化して増強することなどを検討する。

投資額はそれぞれの地域で数百億~数千億円の見込み。実際の工事は大手電力の送配電部門が実施する。費用は6月に成立した電気事業法などの改正法に基づき、電気の利用者が負担する仕組みを適用する。

すでに工事を始めた宮城県と首都圏をつなぐ連系線では、約450万キロワット増やす工事の投資額が約1500億円。30年超にわたって全国で分担すると、1世帯あたりの負担額は毎月数円になる見込みだ。

国内でこれまで送電網の整備が遅れてきた背景には大手電力の消極的な姿勢があった。連系線を拡充すれば地域を越えた販売が容易になり競争が激しくなる。地域独占が続いていた各社は増強に後ろ向きだった。

東日本大震災東京電力福島第1原子力発電所が重大な事故を起こし、東電は計画停電を実施した。送電線を増強して他地域から融通を増やす対策に東電などは「数兆円の投資がかかる」と二の足を踏んだ。

震災から約10年がたった今も拡充は遅れている。大手電力は送電網の拡充について「災害時に停電リスクを減らせる」といった声がある一方、再生エネの流入で自社の発電量が減ったり、他社の越境販売を後押しして顧客を奪われたりすることなどを警戒する声が根強い。

菅義偉政権は温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を打ち出し、実現のため再生エネの導入加速がさらに欠かせなくなった。主に電力会社に委ねる従来の体制から切り替え、国の主導で強力に推進することで、どこまで電力会社を動かせるかが焦点になる。

国のエネルギー基本計画で政府は、30年度の電源構成に占める再生エネの割合を22~24%とする。自然エネルギー財団は、送電網の増強への政府の後押しや、電気をためておく蓄電池のコスト低下が進めば、再生エネの設備が30年度に2億キロワットと2019年度の2倍以上に増えると予測する。全体の発電量に占める比率は45%まで引き上げることが可能とみる。

再生エネの普及で先行する欧州では、国をまたいで電力を融通する国際送電網が発達している。各国が平均1割ほどの電力を輸出したり輸入でまかなったりする。電力の過不足を融通することで天候などに発電量が左右される再生エネの弱点を補う。島国の日本では海外との連携が難しく、国内の地域間ですら融通量が限られている状況の改善は喫緊の課題だ。

(小川和広)