北海道)副読本「厚岸のアイヌ」、46年ぶり復刻

 北海道)副読本「厚岸のアイヌ」、46年ぶり復刻

2020/7/15 朝日新聞

 

 北海道厚岸町の中学校長だった佐藤保治さん(故人)は1974(昭和49)年、地元のアイヌ民族の歴史を副読本「厚岸のアイヌ」にまとめた。釧路アイヌ文化懇話会は46年ぶりにこの本を復刻した。「先住民族の苦難の歴史を忘れるな」という佐藤さんの思いをいまに伝える。

 佐藤さんは北海道東部の小中学校に勤め、70年に厚岸町立上尾幌中学校(現在は廃校)の校長になった。

 厚岸のアイヌ民族の歴史はほとんど知られていない。佐藤さんは町史の編集にたずさわり、歴史は和人を中心に書かれているが、町の礎を築いたのはアイヌ民族だと気づいたという。

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 地元の子どもたちにも伝えたいと、73年の定年退職を前に、ガリ版刷りの副読本にまとめた。74年に「厚岸のアイヌ」として再刊した。

 「今までの学校教育では、アイヌ民族についての問題はできるだけ避けるようにしてきました。どの教科書にもほとんど書かれておりません。だが、こんな事で良いのでしょうか。正しく知ることによってこそ、人種的偏見を改め、差別感をぬぐい去ることができるのではないでしょうか」

 「厚岸のアイヌ」の前言でこう述べている。

 厚岸では――。江戸時代、交易権を商人に委託し、経営を請け負わせた場所請負制度により、アイヌ民族は商人によって生活を覆され、和人よりはるかに安い給料で働かされた。品物の売買でもだまされ、和人とは量や値段で不公平だったという。

 幕末、アイヌ民族はカキのむき身を30キロ分売っても、清酒1升か下帯(ふんどし)1本買える程度。塩ザケ40本売って上等な手拭いが1本やっと買える。塩ザケ20本では刻みたばこ1玉も買えなかった。佐藤さんは決まりや値段などを史料をもとに具体的に記し、当時の暮らしぶりを明らかにしている。

 佐藤さんは2005年に亡くなった。92歳だった。

 アイヌ文化の研究をしている様似町の大野徹人さん(46)が、佐藤さんの熱い思いを「厚岸のアイヌ」で知り、「貴重な記録だ」と釧路アイヌ文化懇話会に復刻を持ちかけた。

 懇話会の山本悦也会長(64)は「差別や偏見をなくそうというメッセージは現代にも通じる」と発行を決めた。懇話会メンバーで、藤田印刷社長の藤田卓也さん(72)が「100年後も残したい」と、ガリ版刷りの手書き文字を活字にする印刷を引き受けた。アイヌ民族文化財団の出版助成を得た。

 復刻版は137ページ。非売で300部発行、博物館や図書館、高校、中学校などに贈られた。(高田誠)