(天声人語)香港デモの所作

天声人語)香港デモの所作

2019/8/23

 

 香港のデモに終息の気配が見えない。路上を埋め尽くす若者たちの表情に、5年前、現地駐在の記者として追った「雨傘運動」が重なる。民主化を求めた若者たちが警察の催涙弾に雨傘で立ち向かい、テントを路上に張って2カ月半占拠した▼取材当時の印象で言えば、一部に暴力はあったが、参加者たちは意外なほど冷静だった。若者が救護テントや携帯の充電場所を設営し、その親世代が飲み水やマスクを運び入れた。路上の自習テントでは、「短時間でも参加を」と高校生が宿題の数学に取り組んでいた▼現地で取材中の同僚によると、今年も10代、20代の姿が目立つ。「救急車が来た」と声をかければ、整然と道を空ける。立法会(議会)に突入した日も、「不可破壊」「保護文物」と互いに自制を呼びかけたそうだ▼往来を妨げる空港占拠や、時に報じられる暴力沙汰は、日本から見ていても残念でならない。それでも今のデモでは、5年前に道路網を寸断した長期のテント籠城(ろうじょう)は姿を消したそうだ▼時間ばかりが費やされ、住民も疲弊した雨傘運動から、香港の人々は教訓を得たのだろう。デモが節度を失えば、たちまち市民の共感を失う。人心が離反すれば、当局がすかさず排除に乗り出す▼「もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」。5年前の運動で横断幕に大書された魯迅の言葉を思い出す。今回のデモも来週には雨傘の79日間を超える。時代に即した街頭行動を模索する試みは続く。