慰安婦問題検証のドキュメンタリー映画「主戦場」が道内公開 映画制作のきっかけは北星学園大脅迫
06/08 北海道新聞旧日本軍の従軍慰安婦問題で、慰安婦になることを強制されたことを否定する人たちの主張を検証する米ドキュメンタリー映画「主戦場」(ミキ・デザキ監督、122分)が8日、札幌を皮切りに道内で上映が始まった。デザキ監督(36)は日系2世の米国人で、日本の大学院に留学中、元慰安婦の証言を報道した元朝日新聞記者植村隆氏や植村氏の勤務先だった北星学園大(札幌)が脅迫された事件に興味を持ち、卒業制作として日韓米で取材を開始。否定派、肯定派30人以上にインタビューし、映画にまとめた。
映画では、ジャーナリストの桜井よしこ氏や自民党の杉田水脈(みお)衆院議員ら否定派8人の主張を「慰安婦は性奴隷だったのか」などの論点別に紹介し、それら主張と対比させる形で、肯定派約20人の見解を伝える。
インタビューの中で杉田氏は、米国などで建立が進む慰安婦被害を象徴する少女像について「目的はお金だ。どんなに頑張っても中国や韓国は日本より優れた技術が持てない」「プロパガンダで日本をおとしめて(日本の)製品を買わせないようにしている」と述べる。これに対し、市有地に少女像が立つ米グレンデール市の元市長は「金をもらって像(の建立)を認めたわけでない。アジアの少女たちの人権侵害だからだ」と説明する。
植村氏は1991年、韓国で最初に名乗り出た元慰安婦の証言を朝日新聞で報道した。2014年、桜井氏らが雑誌で「捏造(ねつぞう)記事」などと批判。激しいバッシングが起こり、植村氏が講師を務めていた北星学園大に爆破予告の脅迫状が送りつけられた。植村氏は15年、桜井氏や雑誌社などを相手取る名誉毀損(きそん)訴訟を札幌や東京で起こした。当時、東京の上智大大学院に留学していたデザキ監督は、報道から20年以上たってから脅迫されたことや、なぜ否定派がここまでこだわるのかに興味を持った。
デザキ監督は米フロリダ州で育った小中学生時代、周囲から、目尻を指でつりあげるしぐさをされたり、「チンク(アジア人の蔑称)」と呼ばれたりする差別を受けた経験がある。今回の撮影について「中立の立場でインタビューしたが、否定派が、明かな民族差別を『区別である』と開き直る発言に驚いた」と振り返る。
慰安婦問題の解決については「日韓の一般の人たちが事実を知って議論することが不可欠」とし、「どちらの主張に説得力があるか、映画を見て考えてほしい」と語る。
インタビューを受けた桜井氏ら7人は今年5月、「商業映画になることを承諾していない」などとして、上映中止を求める抗議声明を出した。デザキ監督は「映画祭への出品や一般公開も考えていることを伝えていた」と反論している。(長谷川綾)
道内の上映は以下の通り。
▽札幌 8~14日(8日は完売)、シアターキノ(電)011・231・9355▽帯広 14、15日、とかちプラザ。おびひろ自主上映の会(電)0155・66・5015▽苫小牧 22日~7月5日、シネマ・トーラス(電)0144・37・8182