文科省「異例の要請」が物議 教育の独立揺るがす恐れ

文科省「異例の要請」が物議 教育の独立揺るがす恐れ

2018/3/22 日本経済新聞





 文部科学省名古屋市立中で講演した前川喜平・前事務次官の授業内容の報告を同市教育委員会に要請したことが物議をかもしている。文科省は「主体的な判断」とするが当初は国会議員からの照会を隠し、個別の授業内容に質問状を送る異例の対応に政治家の“圧力”が見え隠れするからだ。文科省の対応に「教育の独立を揺るがしかねない」と批判が出ている。



 「前川氏は天下り問題で辞職し、停職相当とされた経緯があります」。前川氏を総合学習公開講座の講師として招いたことについて、文科省は3月上旬に「どのような判断で依頼されたのか、具体的かつ詳細にご教示ください」などと市教委に2回に分けて質問状をメールで送った。

 このような個別の授業内容の問い合わせについて、元文科官僚の寺脇研・京都造形芸術大教授は「自分が官僚だった時代には一度もやったことがない。考えたこともない」と異例さに驚く。

 なぜ異例なのか。教育基本法は教育が「不当な支配に服する」ことを禁じており、国と地方自治体との役割分担を明記しているからだ。

 今回の問い合わせ項目は計26に上り、録音の提供まで求めていた。寺脇教授は「教育の独立を担保してきた国と教育委員会の信頼関係が壊れかねない」と懸念する。

 背後に政治家の“圧力”も見え隠れする。

 文科省が授業内容を確認するきっかけは、自民党の文科部会長の赤池誠章参院議員(比例)からの照会だった。

 同省は電話で名古屋市教委に授業内容を問い合わせ、赤池氏と、赤池氏に相談した同部会長代理の池田佳隆衆院議員(比例東海)に説明。さらに約1週間後の3月1日には改めてメールで質問状を市教委に送信。送信前に池田氏に質問状を見せ、指摘通りに修正していた。

 こうした対応について同省の淵上孝・教育課程課長は20日夜の記者会見で「(文科省として)さらに説明を求める必要があった」として、修正を含め「あくまでも文科省の主体的な判断」と強調する。

 ただ文科省は当初、こうした経緯を説明せず、前川氏の授業について「報道で知った」として政治家からの照会を明らかにしていなかった。池田氏に説明してからメールを送信するまでの1週間のやりとりも淵上課長は「記憶がない。(他の職員については)分からない」としており、不透明さが残ったままだ。

 今回の対応については自民党内からも疑問の声が上がる。馳浩文科相は市教委へのメールを「言語道断」と批判。「事実確認なら電話だけでよい。あのメールを受けとった側がどう感じるか考える必要があった」と指摘した。

 文科省中央教育審議会の委員を務める小川正人・放送大教授は「総合学習は学校の創意工夫を重視している。国が注文を付けていると思われれば現場は萎縮しかねない」と指摘。そのうえで「ただでさえ政治教育を充実する新科目『公共』の導入を控えており、国は現場との関係に慎重であるべきだ」と今回の対応に疑問を投げかけている。