風力発電、送電線が壁 事業者負担は独の3倍
経済 環境エネ・素材 2018/1/7 1:28日本経済新聞 電子版
再生可能エネルギーの柱として期待が大きい風力発電。だが日本では普及が進まない。家庭などに届けるのに必要な「送電線」を使うために発電事業者が払うコストが高く採算に乗りにくいため。既存の送電線が十分に利用されない問題もある。風力発電の本場、欧州との差は開くばかりだ。
2017年12月、出力12万キロワットと日本最大となる風力発電所の建設が青森県つがる市で始まった。元トーメン役員で「日本に風力発電を持ち込んだ」といわれる堀俊夫氏が創業した風力発電会社、グリーンパワーインベストメント(東京・港)が手掛ける。
大型の開発計画は今後も続くが、堀氏は「深刻な問題がある」と話す。送電線の費用負担だ。
日本の送電網は大手電力会社が保有している。利用する側の発電事業者は大手電力が送電線を新たに造る際、工事代の一部を負担しなければならない。欧州は発送電分離が進んで送電会社が生まれ、送電線への投資を電力料金を通じて社会全体で負担しようという流れがある。しかし日本では送電線を使う企業の負担が大きくなりやすい。
そもそも日本は風車を山地に造るケースが多く造成や輸送路の拡張費用がかさむ。環境影響評価(アセスメント)の調査も時間がかかり、高コストになりやすい。
追い打ちをかけるのが送電線。自然エネルギー財団などの調べでは14〜16年に運転を始めた風力発電所で事業者の送電線関連費用は1キロワットあたり293ユーロ(約4万円)。ドイツの約3倍だ。平均的な2万〜3万キロワット規模の発電所で8億〜12億円かかる。太陽光発電も同じような課題があるが風が吹く地域が限定される風力と異なり、送電線のためにコスト高になれば場所を変えれば済む。
「最近さらに費用が上がった。計画を断念するケースが出かねない」。風力発電大手エコ・パワー(東京・品川)の真鍋修一取締役は言う。東北地方で行われる入札の見積価格が要因だ。
再エネの接続申し込みが急増した東北電力は16年、基幹送電線の増強を決め、接続したい発電事業者を17年に募った。280万キロワット分という大規模の入札を18年2月に実施することにした。
しかし、東北電が入札に先立って昨年夏に示した見積もりに各社は驚いた。「我々は送電事業者じゃない」。岩手県で風力発電所を開発する大手の担当者は憤る。送電線の投資も必要で負担額は想定の5倍以上だった。別の風力発電大手幹部も「1キロワット1万〜2万円程度だった工事負担金が10万円ぐらいに跳ね上がったイメージ」という。
さらに問題なのは、既存の送電線が「がら空きの高速道路」であることだ。京都大学の安田陽特任教授らの試算によると、東北北部と北海道の基幹送電線の実際の利用率は2割以下という。
経済産業省系の認可機関が定める送電線の運用指針では、利用する発電事業者は接続申し込みの早い者順で決まる。しかも、送電線はこうして決めた発電事業者が使う仕組み。動いていない原子力発電所や火力発電所がフル稼働することを想定した送電線が遊んだままだ。申し込みが受け付けられなかった事業者は利用できない。
ただ「電力会社を責めても解決しない」と安田特任教授は言う。「発送電分離や電力市場改革が進まず、法整備の不調和が根本原因。そのリスクが新規参入の再エネ会社に過度に転嫁される」
電力会社は決められたルールに従って動くしかない。ある電力大手幹部は「再エネ拡大に対応しなければならない一方で電気代を下げろという圧力もある」と嘆く。どうしても発電事業者に負担を求めざるを得ない。
ルールを変え、がら空きの送電線を活用してコストを下げないと風力の導入は進まない。政府は空き容量を見ながら既存送電線を有効利用する英国の制度に習い「日本版コネクト&マネージ」と呼ぶ取り組みを始めた。12月12日に開いた経産省の委員会では東北北部で部分的な適用を決めた。
それでも「5、10年先の送電線の状況が見えない」(秋田県で洋上風力を計画するレノバの木南陽介社長)ことが発電事業者の投資計画に影を落とす。欧州では送電会社連合が30年までに約20兆円を投じる送電線増強計画を16年末に公表。風力発電事業者の経営環境を巡る差は開く一方だ。
再エネ大手のオリックスやソフトバンクグループは海外に目を向け始めた。国内のコストが今のままでは高い成長が望めない。自然エネルギー財団の木村啓二上級研究員は「本来は日本で育つはずの企業が海外に出て行くのは不幸なこと」と話す。脱ガラパゴスに向けた抜本的な政策が求められている。(安田亜紀代)