風力、ネックは送電網

風力、ネックは送電網
経産省、買い取り価格引き下げ 事業者の開発意欲に水

2017/2/22付日本経済新聞



 風力発電に逆風が強まっている。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)開始から建設計画が相次ぐが、風が強い建設適地の東北地方で送電線不足の問題が浮上する。2016年12月には買い取り価格が17年度から下がる案が決まった。送電線の増強には10年程度かかる可能性があり、事業者の開発意欲に水を差している。


 「送電網接続の投資が増えるのに買い取り価格が下がるのは厳しい」。東北で風力発電開発を進めるジャパン・リニューアブル・エナジー(東京・港)の安茂会長はため息を漏らした。

 経済産業省有識者会議は現在1キロワット時あたり22円の風力発電の買い取り価格を17年度から3年間、毎年1円ずつ下げる案を決めた。逆風は価格だけではない。

 「いま、東北のあらゆるプロジェクトがストップしている」。昨年10月下旬、東京・永田町の自民党本部で開かれた「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の会合。米風力発電大手、パターンエナジーが出資するグリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)の堀俊夫社長は窮状を訴えた。

 指摘したのは青森、岩手、秋田など東北北部での風力発電計画の遅滞だ。発端はその5カ月前。地域の送配電網を運営する東北電力が突然、「東北北部における系統状況変化について」と題した書面を公表した。


「増強に10年」


 発電所の新設計画が一定段階まで進むと、発電事業者は地域の大手電力に送配電網への接続を申し込む。受け入れは先着順。発電所で作った電気は周辺で使い切らなければ、より高圧の基幹送電線で需要地に送られる。

 東北電によると、12年のFIT開始以降、管内で太陽光や風力の新設が相次いだ。このため宮城県沿岸北部を含む東北北部と、同南部をつなぐ基幹送電線の一つに物理的にこれ以上電気を送り込めなくなった。新たに基幹送電線を作らなければ、東北北部に発電所を新設しても接続できなくなるという。

 GPIは岩手県岩泉町と宮古市にまたがる地域で国内最大規模の20万キロワット、総事業費400億円の風力発電所を計画する。環境影響評価(アセスメント)をほぼ完了し東北電力に送電線への接続を申し込んだが、10年かかるとされる基幹送電線の増強を待たなければならなくなった。

 事情はほかの事業者も同じだ。「今、新規の開発費用の支出を止めている」。別の風力発電事業者は東北北部で環境アセスに着手したが、追加の設備や土木関連の設計を止めた。20年だった開業目標も23年に延期。「いま撤退したら数億円の損が出る」と試算するが、それも現実味を帯びる。


不透明な運用


 東北北部は北海道と並んで風が強い。青森、秋田、岩手の3県で、環境アセス手続きに入っているのが50カ所以上、最大400万キロワット規模の風力発電所の計画がある。送電線問題はこの開発機運に大きな影を落とす。

 空いている送電線がないわけではない。東通原子力発電所青森県東通村)や新設を計画する原発向け高圧送電線がすでにある。

 東通原発東日本大震災以降停止中で原発から電気は通っていない。ある開発事業者幹部は「4車線の高速道路がガラガラなのに、莫大な費用で真横に1車線増やそうとしている」とたとえる。

 名古屋大学大学院の高村ゆかり教授は「送電網のどこにどれだけの電気が流れているのか、情報開示がされていない」と指摘。再生可能エネルギーの導入拡大には送電網運用の透明性を高める必要があるとし「送電網の整備計画をきちんと立てなければならない」。

 東北電は「個別の案件については答えられない」としている。が、関係者の間では基幹送電線がいっぱいになったのは秋田県関西電力と丸紅が計画する出力130万キロワットの石炭火力発電所の接続が受け入れられたからだ、とささやかれる。

 「先進国で石炭火力を進めているのは日本だけ。温暖化対策のために優先すべきなのはどちらか明らかなはずだ」。風力事業者の疑問は解けそうにない。

(庄司容子)