「共謀罪」法案 危うさ隠す政府の姿勢 信濃毎日新聞 社説

共謀罪」法案 危うさ隠す政府の姿勢 信濃毎日新聞 社説





 「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法の改正をめぐって、法案提出前から国会で激しい論議が起きている。重要な論点の一つが、国際組織犯罪防止条約を締結するには法制化が不可欠とする政府の説明である。

 条約は2000年に国連で採択された。国際的な組織犯罪を防ぐため、重大な犯罪の共謀、または犯罪集団の活動への参加を処罰することを締約国に義務づける。

 この義務を国内法は満たしていないと政府は言う。一方、日弁連は、条約の締結に新たな立法は必要ないと指摘している。

 思想でなく行為を罰する。それが刑法の根本にある考え方だ。既遂の処罰を原則とし、例外的に未遂罪がある。実行に至らない段階で処罰することは、例外中の例外として認められるにすぎない。

 話し合っただけで処罰の対象にすることは、内心に踏み入り、思想を取り締まることにつながる。刑法の原則を覆し、著しい人権侵害を招く恐れがある。

 幅広い犯罪に共謀罪が適用されれば、未遂罪さえ定められていない犯罪が共謀罪で処罰されるような矛盾も起きかねない。刑法の法体系は土台から崩れてしまう。

 条約は〈自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置をとる〉と明記している。憲法や刑法の原則に反する法整備が求められているわけではない。

 日弁連はまた、重大な組織犯罪を実行前の段階で処罰する規定は既にあると指摘する。殺人や放火は予備罪が定められ、凶器準備集合罪は暴力犯罪を準備段階で処罰できる。ハイジャック防止法にも予備行為を罰する規定がある。

 なぜ、さらに幅広く共謀罪を設けなければならないのか。政府の説明は十分な根拠を欠く。

 共謀罪法案は2000年代に3度、国会で廃案になった。今回は罪名を「テロ等準備罪」に改め、一定の準備行為があることも要件に加える。「共謀罪と呼ぶのは間違い」だと安倍晋三首相は言うが、共謀が処罰の対象になることに変わりはない。

 テロ防止に条約締結は極めて重要とし、「締結できなければ東京五輪を開けないと言っても過言ではない」とも述べた。ただ、条約は本来、マフィアなどによる組織犯罪の防止を目的にしたものだ。条約締結と五輪に向けたテロ対策はただちには結びつかない。

 共謀罪の危うさを覆い隠すかの姿勢が見え隠れしている。惑わされず、国会の論議に注意深く目を向けていく必要がある。

(1月28日)