監督が儲からない、日本の映画業界への不安

監督が儲からない、日本の映画業界への不安

http://www.excite.co.jp/…/20161226/asahi_2016122600166.html…



(一部抜粋)
是枝も続ける。

「映画文化が豊かになるためには映画作りの多様性が確保されていないといけない。東宝は企業としてはすばらしいが、好調ないまこそ、公開規模のバリエーションや新人育成のビジョンをみせて、映画文化にどう寄与するかを示してほしい」

●ヒットアニメの固定化

 大金が動く大作の制作では失敗が許されず、プロデューサーや製作委員会などの意見が作品に反映されやすくなる。「観客の見たいものから逆算して作る」というプロデューサー主義の浸透が邦画の隆盛を導いたのは事実だが、

「監督がテーマと深く、強く向き合った作品が、世界で通用すると信じている。僕はそういう作品が好きだし、監督の作家性を邪魔ものにしないでほしい」

 と是枝。前出のフジテレビ映画事業局次長、臼井裕詞も言う。

「プロデューサーが作りたいものを作らせているだけでは行き詰まる。前提は、面白いクリエイターがいてこそ。いまは再び、強い作家性のある監督が求められている時代です。私たちも、新しい作り方を再び模索しているところです」

 その意味で、「この世界の片隅に」のスマッシュヒットが、日本映画の未来にとって一筋の光明となるのかもしれない。

太平洋戦争下の広島を舞台にしたアニメーションが、11月の公開以降じわじわと上映館数を伸ばして、大ヒットの基準とされる興収10億円超が見えてきた。
 
(中略)

●たった8日で2千万円

 説得に必要なのは内容よりも数字。もう、どうにもならないのか。

制作を担当するMAPPA丸山正雄(75)は、ジェンコの真木太郎(61)に相談する。真木は前作の出来に感動してプロデューサーを引き受けたが、やはり資金調達に苦しんだ。「クラウドファンディング」に行き着くも、資金調達の事例を調べると、集められるのは多くて数千万円単位。アニメ映画の制作には一桁足りない。制作現場にはスタッフが集まってきて、今すぐお金が必要なのに。

「背に腹は代えられないということで、結局、クラウドファンディングパイロットフィルム用の映像制作費を集め、それをもとに営業用の映像資料をつくることにしたんです」(真木)

 この窮余の決断が、はまった。スタートは、15年3月。目標は「3週間で2千万円」だったが、8日で目標額に届き、最終的には4千万円弱が集まった。京都で立誠シネマプロジェクトを運営するシマフィルムの田中誠一も、1万円を出資した。

「反射的に出資しました。僕は30代後半で、片渕監督が関わった『名探偵ホームズ』『名犬ラッシー』で育った世代。こうの史代さんの原作漫画も全部読んだ。間違いないじゃないですか」

 独立系の映画館からは次々と「うちで上映したい」と声がかかった。支援金で5分ほどのパイロットフィルムができ上がると、製作委員会に参加する企業が1社、また1社と増えて、資金が集まっていく。手を挙げたのは、全部で14社。
クラウドファンディングは価値を買うもの。完成してほしい、観たい、という気持ちが金額になって表れました」(真木)

●エンドロールに2千人

 支援者へのメルマガで、「絵に色がつきました」「音が入りました」などと制作の様子を丁寧にリポートしたのは、一緒に作っている意識を持ってもらいたかったからだ。…

援助の返礼にチケットを渡すようなことはせず、1円でも多く制作現場に回した。

 エンドロールには、1万円以上出資してくれた支援者の名前が2千人以上。主演声優にのん(元・能年玲奈)を起用したことでも話題を呼んだ作品だが、配給を手がける東京テアトル映画営業部長の赤須恵祐(47)はいう

「最初は男性客が7割。3週目から女性が半数になった。40代、50代の方が戦争体験者に近い世代の親をつれてくる流れができて、まだまだ拡大している」

 東京テアトル映画宣伝部長の森平浩司(53)は、こう語る。

「監督の前作も、原作の漫画も素晴らしいと思った。私たちが大切にしたいものが、作家性なんです」

 東宝一強体制のなかで埋もれがちな作家性のある映画の作り手をどう育てるか。観る人の覚悟が問われる時代だ。(文中敬称略)

(編集部・福井洋平、柳堀栄子)

AERA 2017年1月2−9日合併号