(ニュースQ3)教科書記述、アイヌ民族の土地「取り上げた」→「与えた」

(ニュースQ3)教科書記述、アイヌ民族の土地「取り上げた」→「与えた」

2016年3月8日 朝日新聞




 明治政府はアイヌ民族から土地を「取り上げ」たのか、それとも「与え」たのか。中学校で使う日本文教出版(日文)の歴史教科書で、アイヌ民族政策を取り上げた記述の一部が4月から正反対に書き換わる。なぜなのか。


 ■日文教科書に「誤解の恐れ」

 2010年度の教科書検定に合格し、現在使われている日文の歴史教科書は、こう記述している。

 「政府は、1899年に北海道旧土人保護法を制定し、狩猟採集中心のアイヌの人々の土地を取り上げて、農業を営むようにすすめました」

 ところが、14年度の検定では、「(旧土人保護法の趣旨を)生徒が誤解するおそれのある表現」と検定意見が付いた。日文は「保護法を制定し、狩猟や漁労中心のアイヌの人々に土地をあたえて、農業中心の生活に変えようとしました」と修正し、検定に合格した。


 ■中身や分量は各社まちまち

 4月から使われる歴史教科書の出版社は日文を含め8社。文部科学省によると、保護法に関して検定意見が付いたのは日文だけ。ただ、教科書作成の指針となる学習指導要領は「北方との交易をしていたアイヌについて取り扱う」とあるだけで、記述の中身や分量は出版社によって様々だ。

 例えば東京書籍は、政府が「アイヌの人々の生活を保護する名目で」保護法を制定したが、「あまり効果はありませんでした」と記述。他社も、狩りや漁などの場を「うばわれた」(教育出版、東京書籍、帝国書院)、「自由に立ち入れなくなった」(清水書院)などと記す。

 アイヌ文化振興法の全国唯一の指定団体、公益財団法人「アイヌ文化振興・研究推進機構」(札幌市)によると、明治政府は1869年に「蝦夷地」を「北海道」と呼び改めて以降、和人優先の開拓を進め、アイヌ民族の土地や資源を取り上げて民間に引き渡したり、別の場所に強制的に移住させたりしたという。

 日文は、「与えた」の記述について、保護法の第1条に1戸あたり1万5千坪以内の土地を「無償下付(かふ)」とあったのを根拠としている。だが、先住民族の問題に詳しい北海道大の吉田邦彦教授(民法)は、農地に適さない荒れ地や傾斜地が多く、15年で開墾できなければ没収する規定もあったと指摘する。日文は別のページで、アイヌの人々が「仕事や土地を失ったり、移住を強制されたりして、生活に困るようになりました」と記述しているが、「明治政府による大きな収奪の中で『下付』があった。それをバランス良く記述すべきだ」と話す。


 ■「歴史改ざん」北海道で反発

 今回の検定結果について、北海道では反発も出ている。北海道アイヌ協会の阿部ユポ副理事長は「アイヌ民族を差別した保護法を肯定的に扱うのは歴史の改ざんだ。公平公正に歴史を教えてほしい」と話す。

 教員有志らがつくった「教科書のアイヌ民族記述を考える会」(若月美緒子代表)は昨年10月、出版社8社と文科省に質問状を送った。1月までに文科省と6社から回答があり、日文は「仕事や土地を失った」と記したページを参照させることや、与えられた土地の多くが農業に適していなかったと注記することを検討中という。1月に記者会見した若月代表は「最低限のことすら記述しない教科書がある。それが一番問題だ」と話した。(花野雄太)