袴田事件:再審開始を決定 静岡地裁

袴田事件:再審開始を決定 静岡地裁

毎日新聞 2014年03月27日 10時05分(最終更新 03月27日 11時37分)



◇衣類血痕のDNA型鑑定を「新証拠」と認定

 静岡市(旧静岡県清水市)で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑が確定した元プロボクサー、袴田巌死刑囚(78)側の第2次再審請求で、静岡地裁は27日、再審を開始し、死刑と拘置の執行を停止する決定を出した。村山浩昭裁判長は、確定判決で犯行時の着衣とされた「5点の衣類」について、「血痕が袴田死刑囚や被害者と一致しない」とする弁護側のDNA型鑑定などを「新証拠」と認め、「後日捏造(ねつぞう)されたとの疑いを生じさせるもの」と結論づけた。

 死刑確定事件で再審開始決定が出るのは、2005年の「名張毒ぶどう酒事件」(13年に請求棄却確定)以来で6例目。拘置の執行停止決定は極めて異例。今回は1審の死刑判決から約46年間経過しており、村山裁判長は「無罪の蓋然(がいぜん)性が相当程度あることが明らかになった以上、拘置を続けることは耐え難いほど正義に反する」と述べた。

 1980年に最高裁で確定した判決は、袴田死刑囚の勤務先だったみそ製造会社工場のみそタンク内で1審公判中に見つかった5点の衣類について、袴田死刑囚や被害者と同じ血液型の血痕が付いていたと認定し、有罪の最重要物証と位置付けていた。

 第2次請求審は袴田死刑囚の姉秀子さん(81)が2008年に申し立てて開始。1次請求審では不調に終わった5点の衣類の血痕のDNA型鑑定を再実施し、その結果をどう判断するかが最大の焦点となった。

 弁護側鑑定人は「血痕は袴田死刑囚や被害者と不一致だった」との結論を出し、弁護側は「有罪認定に合理的な疑いが生じる新証拠」と主張した。一方、検察側鑑定人は「被害者と一致する可能性は排除できない」との見解を示し、検察側は弁護側鑑定の信用性について「試料が古く、DNA抽出も不完全」と疑問を呈していた。

 これについて、村山裁判長は「検査方法としては弁護側鑑定の方がより信頼性が高い手法を用いている」と判断。5点の衣類について、「袴田死刑囚のものでも被害者4人のものでもない可能性が相当程度認められる」と述べた。また、衣類の色についても「タンク内のみその色と比較して不自然に薄い可能性が高いうえ、血痕の赤みも強すぎ、長期間みその中に隠匿されていたにしては不自然」と言及した。


 1981年に始まった1次請求審で弁護側は5点の衣類について、「ズボンは小さすぎて袴田死刑囚がはけない」などと主張。しかし、「ズボンはタンク内のみそに漬かって縮んだ」と退けられ、2008年に請求棄却が確定した。しかし、今回の決定はズボンのサイズについても「袴田死刑囚のものではなかったとの疑いに整合する」と指摘した。【荒木涼子】

 ◇袴田事件

 1966年6月30日未明、静岡市(旧静岡県清水市)のみそ製造会社の専務宅から出火し、焼け跡から一家4人が他殺体で発見された。静岡県警は同社社員寮の部屋で被害者の血が付いたパジャマが見つかったとして、従業員だった袴田巌死刑囚を強盗殺人容疑などで逮捕。袴田死刑囚は公判で無罪を主張したが、1審・静岡地裁は68年、死刑を言い渡し、80年に最高裁で刑が確定した。