地震学者をだました活断層 「添水」の仮説は脆弱な前提

地震学者をだました活断層 「添水」の仮説は脆弱な前提
2014.02.21    連載:警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識  産経新聞




 地震学者が米国の活断層に騙(だま)されたことがある。

 地震学者が、ここならば地震予知は簡単だろうと考えていた場所がある。米国カリフォルニア州のパークフィールドというところだ。ロサンゼルスとサンフランシスコのほぼ中間に位置する。ここはサンアンドレアス断層という長さが1200キロもある大断層の一部である。この活断層カリフォルニア州を西北から東南へ横断している。

 開拓時代よりも昔のことは分かっていないが、ここでは1857年から過去6回の地震が、じつに規則的に、20〜25年ごとに起きていた。最後の地震は1966年だった。

 どの地震マグニチュード(M)は約6とそろっていた。地震のときの地震断層の動きかたも瓜二つで、たとえば9000キロ離れたオランダの地震観測所で記録された地震記録は、見分けがつかないくらいよく似ていた。

 このため「次」である90年前後に合わせてこの地域のまわりには網の目のようにいろいろな観測点が敷かれ、次の地震を待つ準備は万端、整えられた。

 過去の地震のうち最後の2回では、本震の17分前にM5の地震が起きていた。前震である。

 そして、ある日、M4・7の地震が起きた。誰の目にも来るべき地震の前震に見えた。

 そのうえ、地殻変動や井戸の水位にも変化が現れた。

 そして地震学者たちが固唾を呑(の)んで待つこと数時間。1日。数日…。

 そして数週間。やがて数カ月。しかし何も起きなかった。

 結局、これほど分かりやすいと思われた事例でも、地震学者が期待した地震は起きなかったのだ。

 じつは15年もあとの2004年になってから、近くでM6の地震が起きた。しかし詳細に調べてみると、この地震震源の位置も、震源断層の動きかたも違った。明らかに別種の地震だったのである。

 地震が繰り返すメカニズムは、日本庭園にある添水(そうず)のようなものだと信じられている。つまり、地震を起こすエネルギーが一定の早さでたまっていって、やがて限度を超えると、地震が起きる。直感的で分かりやすい仮説だ。この米国の事例はこの仮説に冷水を浴びせるものだった。

 現代の地震学でも、パークフィールドの地下で、一体何が起きたのかはまだ分かっていない。単純な繰り返しをストップさせたのが何だったのか、あるいはそもそも周期などなかったのか、皆目見当がつかないのである。

 だが日本では、政府の地震調査委員会が発表している日本各地の将来の地震確率はこの「添水」の仮説を前提にしている。地方自治体や一般の人が一喜一憂するにはあまりに脆弱(ぜいじゃく)な前提というべきであろう。

 ■島村英紀しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年、東京都出身。東大理学部卒、東大大学院修了。理学博士。東大理学部助手を経て、北海道大教授、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長などを歴任。『直下型地震 どう備えるか』(花伝社)など著書多数。