汚染水の行方(6) リスクの低減 「ALPS」への期待

汚染水の行方(6) リスクの低減 「ALPS」への期待




汚染水対策の切り札として期待されるALPS。だが、相次ぐトラブルで本格運用には至っていない=10月17日(福島民報社撮影)



 「ALPS(多核種除去設備)の増設が必要ならば国が責任を持つ」
 東京電力福島第一原発の地上タンクから約三百トンの汚染水が漏れた事態を受け、知事の佐藤雄平(65)が経済産業省を訪れた8月28日、経産相茂木敏充(58)はALPSの増設を表明した。「率直に言って、この(汚染水)問題は東電任せで、もぐらたたき的な状況が続いてきた。きちんとした対策を立てないといけない」と政府の対応の不備を認めた。
 同席した資源エネルギー庁原発事故収束対応室長の新川達也(46)は驚いた。「対策として増設が選択肢の1つであることは大臣に伝えていたが、踏み込んだ発言になるとは思わなかった」と明かす。
 汚染水漏れが発覚した8月19日以降、政府は目まぐるしく動いた。同26日、茂木は福島第一原発を視察し、東電に高濃度汚染水処理の加速化などを指示した。佐藤と会談し、ALPS増設を表明したのはその2日後だ。9月3日、政府の原子力災害対策本部は「汚染水問題に関する基本方針」を決定。1週間後の10日には、新型の多核種除去設備の整備に今年度予備費69億7000万円を充てることを閣議決定した。
 相次ぎ発生する汚染水トラブルに当時、本県など全国の漁業関係者は怒りの声を上げた。政権の身内である自民党内からも不満が噴出していた。海外メディアも政府、東電に批判の目を向けた。政府には、対策が後手に回り、国内外の世論の反発を招いたことへの強い危機感があった。
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 現在、整備済みのALPSはA、B、Cの三系統ある。最大で1日当たり750トンを処理できる。東電はさらに三系統を増やす。政府が整備する高性能の多核種除去設備は1日当たり500トンの処理能力があり、東電のALPSと合わせて処理能力を1日二千トンにまで引き上げる計画だ。
 ただ、現行のALPSはいまだ試験運転中で、本格運用の見通しは立っていない。汚染水に含まれる海水や処理用の薬剤による腐食でタンクに穴が開くなどのトラブルが発生しているからだ。9月末には試運転を再開してから1日もたたないうちに、タンク内に置き忘れたゴム製シートが原因で停止するという人為ミスまで起きた。
 汚染水に含まれる63種類の放射性物質のうち、62種類を除去できるというのがALPSの「売り」だが、汚染水を使った「ホット試験」では、コバルト60など数種類がまだ検出限界値以下まで下がっていないのが現状だ。
 新川は「それでも国が規則で定める限度の十分の1から1000分の1の数値になっている。処理能力は極めて高い」とALPSに信頼を寄せる。「試験運用であっても処理さえすれば、それだけ汚染水管理のリスクが低下する。増設する処理設備もできる限り早く稼働させたい」と強調する。
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 ALPSの運用が軌道に乗っても、課題は残る。汚染水に含まれる63種類の放射性物質のうち、トリチウムだけは除去できないためだ。ほとんどの放射性物質を取り除くことで、タンクの漏えいによるリスクは低減できても、トリチウムを含んだ水を処分できなければ、貯蔵タンクは増え続ける。
 「国際基準から見れば、汚染水を処理した上で海洋に放出することも広く行われている。もちろん、その際に国際基準を十分に守り、関係者の理解を得ることは必要不可欠な条件だ」。10月10日、東京都内で講演した国際原子力機関IAEA)の事務局長天野之弥(66)は海洋放出の選択肢を示した。国内外の専門家が相次いで同じ「解決策」を口にしている。
 だが、風評を懸念する漁業関係者らの理解を得るのは容易ではない。(文中敬称略)

(2013/11/03 11:15カテゴリー:ベクレルの嘆き 放射線との戦い 福島民報