核燃サイクル存続ありき 使用済み、処理迫られ MOX燃料搬入完了
2013年6月28日 朝日新聞
核燃料サイクルと巨額のコスト
「3・11」後初めて、原発の使用済み核燃料を再処理した核燃料が27日、関西電力高浜原発(福井県)に運び込まれた。原発を利用し続けるために、非現実的な核燃料サイクル政策が推し進められ、経済的なメリットが薄いプルサーマル発電が再開されようとしている。▼1面参照
「資源の乏しいわが国において、プルサーマルの推進は重要だ」
プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の搬入後、高浜原発で記者会見した関電の水田仁・原子力事業本部副事業本部長はプルサーマルの意義を強調した。
しかし、電力会社がプルサーマルに力を入れざるを得ない背景には、原発内のプールにたまった使用済み核燃料の行き場を確保するためという側面が大きい。
青森県は、六ケ所村の再処理工場での受け入れ条件として、すべての使用済み核燃料の再処理を挙げている。青森県が受け入れを拒否すれば、行き場がなくなり原発が運転できなくなる。
日本の各地の原発プールに保管されている使用済み核燃料は計1万4200トン(2011年9月末現在)。全体の容量の約7割を占め、満杯にかなり近づいた原発もある。
再処理工場のプールにも各原発から運び込まれた約3千トンの使用済み核燃料がすでに入っており、ほぼ満杯。再処理が始まれば、フル稼働で年800トンの使用済み核燃料を使う。その空きスペースに、各地の原発から使用済み核燃料を再び運ぶという「自転車操業」を繰り返すことになる。
使用済み核燃料は減らせても、今度は核兵器の材料となるプルトニウムがフル稼働で年約8トンできる。すでに再処理した44・3トンがあり、さらに増えれば、海外からますます厳しい目を向けられる。
東京電力福島第一原発事故で、プルサーマルを計画通りに進めるのは難しい。電力会社は使用済み核燃料の行き先に危機感を覚え、中間貯蔵施設の利用も考えている。関電は26日、施設設置のためのプロジェクトチームを新設した。
さらに、プルサーマル発電で使い終わった「使用済みMOX燃料」の取り扱いも決まっていない。発熱量が多く取り扱いが難しい使用済みMOX燃料が、原発内のプールにたまる。使用済みMOX燃料をさらに再処理する「第二再処理工場」構想もあるが、海外にも本格的な例がなく、建設場所や時期も未定だ。
(川田俊男、桜井林太郎)
■費用対効果、隔たり大 事業費19兆円/できる燃料9000億円分
電力会社にとって、プルサーマルの経済的なメリットはあまりない。原発で使い終えた核燃料をフランスに送って再処理し、MOX燃料として再び輸入するため、コストがかかるからだ。
財務省の貿易統計(輸出入の統計)によると、2010年に高浜原発に運ばれたMOX燃料は1本あたり8・8億円だった。これは通常使うウラン燃料の7〜8倍になるとみられる。
それでもプルサーマルにこだわるのは、核燃料サイクル政策を守るためだ。
この政策では、使用済み燃料のすべてを再処理してプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜてMOX燃料に加工する。これをプルサーマルで燃やす。
ところが、日本原燃が計画する再処理工場(青森県六ケ所村)は1997年にできるはずだったのに、試運転が19回も失敗し、完成していない。フランスなどのコスト高のMOX燃料を受け取るしかない。
問題はそれだけではない。そもそも核燃料サイクルそのものに巨額のコストがかかるのだ。
原発を持つ電力10社(日本原子力発電を含む)は、再処理工場が完成した時に再処理の費用などをまかなうため、原子力環境整備促進・資金管理センターに12年3月までに3・6兆円を積み立てている。
加えて、10社は試運転にかかる費用を支えるため、積み立てのほかに「処理費」を毎年払い、12年3月までの合計は1・9兆円にのぼる。さらに日本原燃の経営を支えるために将来の処理費を前払いまでして、1・1兆円も出した。積み立てや処理費は合わせて6・6兆円にものぼる。
電気事業連合会の03年の試算では、日本原燃の再処理事業には40年間で19兆円かかる。ところが、これでできるMOX燃料は通常のウラン燃料の9千億円分の量にしかならない。使用済み燃料から取り出せるプルトニウムは重さにして1%ほどに過ぎないからだ。
巨額のコストは電気料金に回される。立命館大の大島堅一教授(環境経済学)は「核燃料サイクルに経済性はなく、つけを払わされるのは国民だ」と言う。
(松浦新、藤崎麻里)